零の旋律 | ナノ

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 尤も、怜都と同様の接近戦を好む汐がいた以上、結果は変わらなかったのかもしれない。しかし、一人で戦う今、遠距離で通すか、接近戦でやるかでは実力差は大いに変わる。
 双海の背後には無数の鎖が出現する。それらは虚を捕えるための武器だ。虚が双海に斬りかかると、双海は剣を作り出して受け止める。汐程ではないが、双海とて様々な武器を操ることが出来るのだ。
 数度の打ち合いの後、双海は剣を変形させて紐にして虚を縛ると同時に鋭利な糸で切り裂こうとする。

「邪魔だ!」

 虚の言葉に魔力でも込められていたのか、突風が吹き荒れ、虚を縛っていた紐は切れ、双海はその勢いに飛ばされて後退するしかなかった。すぐさま体制を整える。
 ――負けられない。
 負けられない思いがある。だから双海は戦う。虚の刃が双海の太股を抉る。偽物を作って作りかえる余裕はなかった。流石にその術を扱うには時間が必要だったのだ。しかし猛攻を仕掛けてくる鬼神の強さを持つ虚が怱々待ってくれるはずもない。
 双海は怪我を忘れて戦うことにした。幻術と現実の境を曖昧にして痛覚を無理矢理双海は遮断する。痛みさえなければ死ぬまで戦える。
 双海の糸が虚の頬を掠める。虚は魔術を使い、剣に炎を纏わせる。灼熱の刃が、双海の腕をやく。肉が焦げる匂いがする。熱は感じない。双海はすぐさま腕の周りに水を作り出して冷やす。痛みは感じない。
 現実との境が酷く曖昧だ。ただ、虚の姿だけが明確に映っている。迸る殺気と殺気をぶつけ合う。金属音が響き合う。血が舞う。銀が舞う。斧が破壊させる。鎖が無残に飛び散る。

「はあああっ!」

 渾身の一撃を食らわせる。刃が砕け、薄く上半身に怪我を負わせる。血が滴り、視界がかすむ。

「おりゃっ!」

 糸が虚の身体を絡め取って引き裂くような激痛に襲われる。痛みを繰り返し受けることで、その身体は痛みに鈍くなるのではなく、痛みに敏感になっていた。それでも死なない。
 痛みで戦意を失うことはない。
 ――待っているんだよ、虚偽
 愛しの弟の存在が脳内に浮かぶたびに刃を握る力が強くなる。

「ほんとに、いい加減捕えさせろよ」

 双海は口から血を流しながら悪態をつく。身体を見ないように戦っているが、既に身体はあちらこちらが傷だらけで酷い有様だろう。痛覚を消し去るために、幻術と現実の境を曖昧にする術を行使していたが、それも限界が近いのか、節々が痛み始めてきた。 それでも――双海も戦意を喪失することはなかった。

「負け、らんねぇよな」

 糸が無数に展開される。光の檻が出現する、光の刃が出現される。


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