X そうして一か月が過ぎた頃、千朱の身体は以前と比べると劣っているものの、それでも充分やりあえるほどに回復した。 だからこそ、朔夜や水渚に再び会うことを決めた。 最も朔夜が誘拐され、その計画の一部は崩れたのだが。 千朱が最果ての街まで足を運んだのは時間に正確な栞が現れなかったから。周辺の罪人に聞きこんだ結果、栞たちは最果ての街にいった情報を掴んだ。 「まぁ殺されかけたけど」 千朱が苦笑いする。後、数秒目覚めるのが遅ければ栞のナイフは自分を抉っていた。 「ちょ、栞ちゃん、千朱ちゃんを殺さないでよ。千朱ちゃんを殺すのは僕なんだから」 「御免御免、役割をとろうと思ってね」 「まぁ結果として千朱ちゃんは目覚めたわけだからいいけれど。遅かったね」 水渚は手を伸ばす。千朱は一瞬躊躇しながらも手を握る。 朔夜はその二人の上から両手をのせた。 「あぁ、遅くなった。所で聞きたいんだが――朔や栞は年をとっているのにお前は殆ど変らないように見えるんだが」 歳月が流れても水渚は最後みた姿を大差ないように千朱には感じられた。 「あぁ、ちょっと訳があってね。まぁ千朱ちゃんだけが外見変らないっての癪、でしょ?」 「どんなだよ」 聞く必要はない、千朱はそう判断した。 「さて、無事再会も出来たことだし――、って篝火。何だか子供を微笑ましく見守るお母さんみたいな表情になっているよ」 一区切りつけようとした栞だったが、近くで篝火のその表情に気付き、小声で篝火に声をかける。 「ん、あぁ。水渚(みぎわ)が感情豊かになって良かった、と思ってた」 「みなぎさって呼ぶといいよ。みぎわは所詮、感情を忘れた状態の彼女でしかなかったから」 「みぎわもみなぎさも、どちらも漢字は一緒か」 だから、名前を聞かれた時に咄嗟に水渚はみぎわと名乗った。 「君は水渚とはどういった知り合いだったの?」 「死ぬ死ぬという者は死んだ例がない」 「へ?」 「そう水渚に嘗ていったことがあるんだよ。似ていたんだ」 「似ていたとは?」 篝火は何度も思い出したあの言葉を心の中で繰り返す。 『相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れって知ってる? 人が人を好きになるのはいろーんな形があるってこと。だから僕が君を好きになる形があってもいいんだよ』 大切な人が言ってくれた言葉を。 「俺がこの牢獄に来た頃に、打倒榴華を掲げた組織がいてその組織の一応の首謀者が水渚ってされていた時に出会ったんだ」 「あー、あの馬鹿らしい事件」 仮にも水渚が首謀者として扱われていた、事件を馬鹿らしいとサラリと言ってしまう栞にだな、と篝火は同意する。 何せ榴華への恨みが水渚にはないのだから。 [*前] | [次#] TOP |