零の旋律 | ナノ

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 双海は神経を集中させる。怪我をした状態で戦うのは得策ではない。ならば――傷を無くすまでだ。
 幻術師水霧双海。幻術を現実へ反映させる力を持った水霧の力を最大限活用して幻術世界にイメージを描く。それは、徐々に形を持って皮膚を作り出す。そして――双海は怪我をしている部分と、幻術で作りだしたそれを重ねあわせ、怪我をしている部分を消し去ると同時に作りだした新たな皮膚血管、細胞などをそこに付着させた――怪我はなくなった。

「俺はただ、決着をつけることを避けたかっただけだ。どちらが上か、なんて周りの奴らにほざかれて欲しくなかっただけだ」

 双海は腕に巻いている布を武器のように手にする。否、それは双海の武器であった。嘗て鬼才として恐れられていた双海の本気だ。

「ははは、全く。ふざけるなよ。私に此処までダメージを負わせたのは君たちが初めてだ、そこは称賛に値する。けれど調子に乗るな!」

 虚は銀の粉で新たな白銀の剣を作り出す。瞬間移動でもしたのかと思わせる早さで双海に切りかかる。それを双海は布で受け止めた。特殊な繊維で作られた布は防御の役割を果たし、普段はそれで防御をしていた。だが――本来の使い方はそれだけではない。途端、白の布はいくつもの細い糸へ変化して、無数の糸を作り出す。それを扱いながら双海は光の剣を無数に作りだし、それを虚へ向けて放つ。
 虚は剣で全て弾くと、次に襲いかかってくるは無数の細い糸、此方は双海が幻術でイメージしたわけではないだけではなく双海自身が操っているため動きが不規則で読みにくい。虚は距離を取ろうとしたが、背後に壁が出現する。虚が咄嗟に屈むと、糸は壁を両断する。背後に回った虚は剣で刺そうとするが、それを双海は振り向きざまに足を回して柄を弾き飛ばす。

「全く、厄介だねぇ」

 虚は苦笑いをする。今までの戦いで連続して受けたダメージは確実に虚の身体を蝕んでいた。どれだけダメージを受けても死なないだけだ。それ以外の弊害は起きてくる。
 だからこそ、虚はこれ以上のダメージを受けることは流石にやばいと判断をしていた。だからむやみに受けることはせずに、極力回避する道を選んだ。


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