零の旋律 | ナノ

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 双海に理解出来るのは、カイヤが持てるすべての力を魔術に込めたこと。捕えるためではない殺す勢いの魔術は虚の身体と心にダメージを与えてその隙に自分に対して虚を捕えろ、そう言っているようにしか聞こえなかった。
 世界を滅ぼせるのではないかと思わせる、光の槍を模した隕石が流星群のように虚に対して真っ直ぐに降り注ぐ。交わせる量ではないし、虚の剣技を持ってしても弾き飛ばせるものでもなかった。音速を超える早さで落下してくるそれらは地面に落下すると同時に弾けて小さい礫が上空へ飛び立とうとさらなる力を生み出す。光は止まない。虚の足元に魔法陣が現れ、それは呪縛となりその場から動くことすら叶わない。

 ――これは

 星星は輝き、虚の身体を貫いていく。これほどまでに死なずの身体が痛めつけられることは今までになかった。

 ――あぁ、痛いじゃないか

 止めといわんばかりに巨大な隕石が虚へ衝突する。眩い光が一面を閃光する。
 それでも虚は両膝をつきながらも、戦意を失っていなかった手を前にのばしていて、まるで何かを投擲した後のようだった。術の行使が終わった後、カイヤは後ろへ倒れる。それを双海は受け止めた。

「……カイヤ」

 身体を貫いている白銀の剣。術を行使したことによって魔力が底をついていたのだろう、交わすことも叶わなかった身体を双海は地面に寝かせる。
 虚は確かに不老不死だが、それでも疲労を確かに双海は感じた。痛覚が刺激され続けたことによって、痛みを全身は感じ続けているだろうし、何より不老不死にとって痛みとは肉体ではなく精神にくるものだ。

「……死んだら、元も子もないんだよな」

 それは、その通りだ。

「下手な意地を通してどうするんだかな。此処で私……俺が虚を捕えられなかったら、結局滅ぶんだ。何の意味もない。カイヤに汐、雪城に泉が全てをかけたのに、俺だけ全てをかけないなんて卑怯以外何者でもないか。それに――怜都に合わせる顔がないな」

 此処で虚を取り逃がせば、間違いなく怜都たちの元へ虚は向かう。それだけは避けたかった。
 ならば、と双海は林檎を作り出して、いつものように齧った。

 ――あぁ、美味しくない。

 痛みが身体中をかけめぐっているのか、虚はすぐに攻撃してこなかった。乱れた銀の髪が双海の瞳に映る。

「……結局、お前らは明確な目的で、こっちは一体何の目的かなんて詳しくはしらねぇけど」

 世界ではなく、大切な存在を奪った国を滅ぼしたかったのか、それを言葉にしていたが結局一癖も二癖もある貴族が言葉通りの意味を実行するとは思えない。真意の裏側に別の意味を隠していたのかもしれない。
 他の誰かにそれを予想されないように。
 それでも、きっと泉たちは国を滅ぼした。言葉通りの意味で。そして、そのあとからが泉たちが何かを企んでいた証なのだろう。それを双海は知らないし、知ることはついになかった。けど、構わなかった。そんなものに興味はないから。


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