零の旋律 | ナノ

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「ラ・ティエティスト・ファエリス・トランテ」

 聞いたこともない言語を口走るカイヤに、双海は驚愕する。一体この魔術がなんであるか、それは双海にとって想像もつかないものであった。
 是は、カイヤが独自に生み出した魔術であり、既存の魔術でもある。元々魔術の仕組みは変わっていない。ただ、魔術を発生させる詠唱する言葉を別の――カイヤオリジナルの言語に切り替えただけのこと。仕組みはその程度のものである。ただ、それの利点はカイヤ以外に解読が出来ないこと。
 カイヤがよく使用するのは炎属性の魔術であるが、しかしカイヤの得意属性は全てだ。苦手な属性などない。だからこそ好んで使うのが炎属性の魔術であるだけ――つまり、何の魔術が来るのか詠唱をしているカイヤ以外には想像もつかないのだ。
 さらに言うならば、カイヤが詠唱をする、それ自体が強力な魔術であることを示している。

「……死んだら、元も子もないか」

 双海はカイヤに言われた言葉を呟く。虚はカイヤに魔術を使わせんと襲いかかってくるのを無数の火の玉が襲いかかる。カイヤが普段扱う術よりも小ぶりで林檎の大きさ程度の火の玉が一面を覆い尽くすほどの個数で現れるのを、虚は最低限だけ白銀の剣で打ち消す。

「幻術師水霧、お前の術は確かに次から次へと新たな幻術を生み出す、その速度は脅威以外の何物でもないだろう、しかし」

 そういって眼前に姿を現した虚に対して土の壁を作り出す。しかし一瞬で破壊され、虚の刃が迫ってくる――咄嗟に左腕で剣を受け止め、幻術世界を経由して距離を置く。

「しかしだ、それでも刹那の時間はタイムラグが生じてしまう。それを隙といわずして何というのだ」
「……」
「ラディエスト・ティアルカ」

 カイヤの詠唱が終わった。途端に十八もの魔法陣がカイヤの足元、背、頭上、に次から次へと現れる。複雑な文様を描く魔法陣同士を文字が繋いで一つの強大な魔法陣を描きだした。
 黄金の輝きは、カイヤの魔術で塗り替えられてしまった空よりも遥かに眩く直視することは不可能だとさえ思うほどの輝きだ。途端に迸る冷気は極寒の地を思いだす。

「……流石だ」

 虚は此処まで強大な魔術を行使したカイヤに少しだけ感服した。


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