W 「白銀なる世界が一面を覆い尽くし、白き唄声が世界を木霊するが故に、万物はそれに答える」 「紅蓮の地獄が大地を覆い焼き、大地を灼熱の海へと変貌させる。古より眠りし太古の焔よ、今此処へ」 「雪と貸せ」 「具現せよ」 二つのハーモニーが波打ち奏でる。 絶対零度の気温へ一気に下がったと思えば灼熱の焔が気温を急上昇させる。雪と焔が相反しながら、そして交わり、急激な気温変動をもたらす。それは最早人間が生きていられる気温を遥かに上回り、それが交互に続く。人間に耐えられるはずがない温度が一面を覆う。 双海と汐は二人の詠唱が聞こえた瞬間離れ、双海は結界をイメージして全員を安全な場所へ避難させる。 果たして――それでも虚は生きていた。戦意を失ってはいなかった。 「あははははっ。ほんとうに、忌々しいほど厄介だ」 しかし、余裕の表情は剥がれていた。その瞳から垣間見られるのは憎悪だ。銀の粉が舞い、虚の形を形どって行くが、やはり再生速度が僅かに遅い。 「全く持って、苛立たしい!」 鬼を呼び覚ましたような錯覚に彼らは陥る。それでも、灼熱と極寒を浴びてなお、戦意を失わない虚を前にして逃げ出すことも臆することもせず、悠然と待ち構える。 「カイヤ、大丈夫か?」 雪城の言葉に、カイヤは頷く。 「だいじょーぶ。僕には必殺技があるから」 そう言って笑ったカイヤの瞳は黄金に輝いていた。 「外的魔力動員か」 虚の視線はカイヤへ向いていた。稀に誕生する金色の瞳、髪は瞳と比べれば存在する確率が高いものの、どちらも数が少なかった。だからこそ、忌み嫌われた。特に瞳は。金の瞳は普通の瞳とは違った。魔術を扱う際、自分の体内に眠る魔力を動員して術を行使するのが普通だ。しかし、中には体内に眠る魔力ではなく、外――外気に溢れている魔力を利用して術を行使する魔術も存在する。そちらを利用する際、より一層外気の魔力を利用しやすい特性を持ったものが『金色』だったのだ。だが、稀有な特性故、その特性を持ったものは滅多に生まれない。また遺伝子要因も大きかった。 カイヤは元から瞳が金色なわけではない。『金色』はただたんに、外気の魔力を利用しやすくするために相性がいいだけだ。だから、カイヤの赤き瞳は、外気魔力を利用する時、魔術を用いて瞳を黄金へ変化させていた。 「そうだよー。流石に体内の魔力は枯渇気味だからね」 でも――外気の魔力は満ちている。そう心の中でカイヤは付け足した。 雪城は足元がふらつく。怪我の痛みを無視しようと思っても、痛みを忘れることは出来ない。 それでも、雪城は一歩一歩歩む。 「全く持ってしぶとい!」 虚がらしくもなく叫ぶのと同時に、虚は動きだす。それを汐は剣で受け止めようとするが女性とは思えないすさまじい力で弾き飛ばされる。地面に激突して転がるが、すぐに受け身を取って立ち上がる。所々擦り傷が出来ていた。 [*前] | [次#] TOP |