零の旋律 | ナノ

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 双海が作りだした檻が虚の四方に出現する。その檻を壊すためには長剣を振るわなければならない。一瞬でもあしどめが出来れば、それが彼らの攻撃をする隙になる。

「そう言えば、玖城は最期の楽園を見たのだろう? 感想くらい聞かせてもらいたいものだな」
「……現実味のない場所だったな。清浄過ぎて、それはある種俺たちには気味が悪いものだろう」

 泉は偽りことのない率直な感想を述べる。最期の楽園が猛威をふるっている今は、最期の楽園の風景を堪能することは叶わない。それでも、二年前銀髪の案内で――泉は勝手にやってきたが――最期の楽園を訪れることが出来たのは、その時代を生きた銀髪の結界によって自然全てが結界内部でおさめられていたからだ。そうでなければ、一歩でも脚を踏み入れた瞬間浄化され消えていただろう。

「成程ね、まぁ否定はしないよ、あそこはそういった風に保管されてきたわけだからね」
「だろうな」

 会話している間にも、次から次へと虚へ猛攻が襲いかかる。カイヤの魔術が展開され、雷撃が迸る。虚は右手で弾くだけでそれを相殺させる。双海が刃を流星群のように降らせるが、それすら虚は銀の粉を使って防御と破壊をする。
 泉の闇が凶悪な鎌となり、虚へ襲いかかるがその瞬間虚は口元に邪悪な笑みを浮かべる。そして闇が全て滅んだ。

「なっ――!?」

 漆黒の闇が一瞬にして幻のように消え去ったのだ。これには泉も驚かずにはいられなかった。
 一気に間合いを詰めてくる虚、泉は鞭を振るうが、死ぬことのない虚は交わすこともせずに攻撃を受けた。泉の眼前に迫ってくる虚、雪城がサポートしようと素早く結界術を展開するが、それを虚は銀の粉を無数の刃のように散らすことで結界を破壊した。長剣が泉を襲う。

「ちっ」

 交わそうとしたが、泉の腕を虚が抑える。振り払うよりも先に長剣が振り下ろされた。

「泉!」

 雪城が素早くかけよるが、それよりも早く光の剣が虚へ向けて無数に放たれる。
 虚が避けることによって、虚の一撃で心臓を貫いていて絶命していた泉に光の剣が突き刺さる。

「双海! お前」

 雪城は言葉にしてから、失敗したとすぐに何でもないと首を横に振る。攻撃のチャンスを逃す必要はないのだ。虚に勝てなければどの道世界は滅ぶ。犠牲を無くして何を成し遂げられるものでもないと、雪城は自分を納得させる。
 ――海棠、槐に潤、お前たちは無事か?
 恐らくは梓と戦っているだろう大切な仲間へ思いを馳せてから虚と向かい合う。汐の鎖鎌の鎖が虚の腕を捕える。そこへ双海の水が滝のごとく襲いかかり、それは虚を捕える触手へと変貌し、身体に巻き付く。

「流石だねぇ」

 しかし、虚が魔術を詠唱すると途端、それらは弾け飛んで消える。

「降り注げ、光の刃。道なき道に道を記す光の街道。我は栄光への道を掴み捕えるための光への道筋。僕らへの思いを形に――」

 カイヤは謳うように詠唱する。それらは光属性の魔術で高難易度の術の詠唱を出来る限り破棄しそれを一つの唄のように繋ぎ合わせていた。
 幾つもの魔術が折り重なり光の輪を作りだす。半透明な光の輪にはいくつもの文字が描かれる。闇夜を一気に光へと移り変えるような眩さを放ち、金色の羽を生み出して全てを飲み込む。
 光は空さへも変貌させ、明るい黄金と夕焼けの輝きに満ちた色へ変った。輝く黄金の粒が舞う。
 一見するとただ華美なだけの術だが、それを間近で受けた者にとって、その威力は計り知れない。一つ一つの粒が破壊力を持って降り注ぐのだ。


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