零の旋律 | ナノ

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 そこへ泉の闇が襲いかかる。硝子を両断するように長剣を振りかざして斬る。真っ二つに裂けたそれらが硝子の破片のごとく虚に襲いかかるが、虚はそれを右手で匂いを追い払うように軽く振る。それだけで暴風がやってきたかのように悉く吹きとんだ。それらがカイヤたちを襲うが、カイヤが咄嗟に結界をはる。

「本当に厄介だな」

 双海は苦笑する。先刻から何度も幻影の剣を作って虚へ投擲しているが、一向にそれが虚へかする気配もない。鎖で捕えようと鎖を四方に出現させて一気に距離を縮めても、その鎖を虚は長剣で両断してしまう。

「……つーか、汐お手製の剣切れ味よすぎだろ」

 思わず悪態をつきたくなってしまうほどの切れ味だった。両断された鎖は霧散すると同時に新たな形を作り出す。

「全くもって水霧の幻術は予想不可能だから面倒だねぇ」

 虚は右手を帽子に当てながら跳躍をする。そこへ、雪が氷柱のごとく襲いかかってきた。

「雪城の魔術か」

 大した殺傷性があるわけではないが虚にとって雪は気をつけたかった。下手をすれば、人形たちのように氷漬けにされてしまう。それで死ぬことはないが捕えられてでもしまえば、愛しの弟の元へ駆けつけることは出来ない。泉の鞭が撓る。頬をかすめたがすぐさま傷は癒える。
 彼らの目的は虚を殺すことではなく、捕えることだ。殺すことが不可能な以上、捕えるしか道はない。カイヤの魔術が炸裂する。目の前に突如出現した火の球が爆弾のように爆発する。火の玉が無数に散って虚の服に付着した瞬間火力を強くして虚の全身を飲み込んだ。しかし、服ごと虚はすぐさま再生して銀の粉を撒き散らしながら別の場所――カイヤの背後に姿を現す。

「カイヤ!」

 振り下ろされる長剣を汐がカイヤを弾き飛ばして、鎖鎌で受け止める。

「君は魔術師の騎士かい?」
「違うさ」
「ちょっとエンちゃんたらひっどーい僕を突き飛ばすってどういうこと!?」

 そういいながら汐もろとも焼き殺さんといわんばかりに火の球を降らす。

「はぁはぁ」

 ややカイヤの息が荒かった。

「大丈夫か?」

 雪城が近づき声をかけると、カイヤは無理矢理笑みを作る。

「大丈夫にきまってんじゃん、このくらい」

 そういうがやはり疲労は隠し切れていない。そもそもカイヤは上級魔術や転移魔術を惜しみなくさらし続けている。それでいて魔力が枯渇しない方がおかしいのだ。普通の魔術師ならば、既に魔力を使いはたして死んでいる。疲れていることだけですんでいるのはカイヤが並大抵の魔力ではなく莫大な魔力を有している証拠に他ならない。

「(それでも、カイヤの瞳が金色と化してきている……)」

 うっすらと赤い瞳の中に黄金の輝きが増してきていた。

「(まぁ、別にだからどうってことはないのだが……)」

 虚が長剣で殺しにかかってくるのを、雪城は軽やかな体術で交わす。深追いはせず、交わすことだけに専念をした。もとより攻撃を得意とはしてない雪城はあまり攻撃に体力を使う真似はせず、それは他の四人に任せてサポートの方に重点を置いていた。


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