零の旋律 | ナノ

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「千朱ちゃん!」

 千朱が目覚めたことが余程嬉しいのだろう、水渚は千朱の抱きついた。

「うおっ」
「あははっ、幻影じゃないんだねぇ。この感触は千朱ちゃんだわ」
「感触で判断するなっ、つか離れろや!」

 右手を振り上げ水渚を殴ろうとしたのを察知し、後方へ下がる。
 朔夜も千朱の元へ近づく。

「お前いつから!?」
「あーと、一か月ちょい前からな」
「だったら何ですぐに顔を見せなかったんだよ!」
「仕方ないだろ? 何年も動いていなかったんだ、身体が鈍って仕方がない」

 水渚と再び対等に戦うために、ブランクを解消するためにその時まで姿を見せなかった。

「じゃないと水渚(みなぎさ)にあっさりやられるだろう」
「あははっ、そうだねー。千朱ちゃんが弱かったら僕の圧勝だろうし」

 水渚の笑顔に朔夜は癒される。これが見たかった水渚の顔。あの事件以来感情を忘れたかのように淡々とした『みぎわ』ではなく『みなぎさ』としての姿。

「……ん? ちょっと待て」

 朔夜がそこで何かに気がつき――栞の方へ視線を移動する。
 栞は微笑ましそうにその様子を見ている、その様子は千朱が目覚めていると最初から知っていた顔。

「栞、お前ひょっとして俺と待ち合わせしたのは千朱と合わせるためか?」
「うん」

 だからこそ、朔夜には何も告げなかった。

「因みにその後は水渚(みなぎさ)と合わせるつもりだったよ。びっくりサプライズ計画をしていたんだけど、充分びっくりしたかな」
「ちょ、栞ちゃん。僕に黙っていたなんて酷いよ。というかどうして栞ちゃんは千朱ちゃんが目覚めたって知っていたの?」

 『みなぎさ』と呼んでも水渚は拒否しない。『みぎわ』と名乗る意味がもうないからだ。
 所詮、水渚の読みを変えて本名を名乗らなかっただけ。榴華に第一の街支配者を明け渡したその時から。

「日鵺朧埼って少年に頼んで治癒してもらったんだ、目覚めるかはわからなかったけれどね」
「日鵺……四大貴族の、それが罪人の牢獄にいたの? って朧埼ってあの時の少年か。彼は日鵺の人間だったんだ」
「うん、そう。もし千朱ちゃんがそれでも目覚めないのなら、俺が殺してしまおうって思ったんだけど」

 結果として殺さなくて済んだ。千朱は目覚めた。そしてその後暫くは水渚や朔夜に見つからないように、第三の街で暫く千朱は過ごした。第三の街には水渚も朔夜も滅多に姿を現すことがない。
 千朱は身体を元の状態とは言わなくともそれに近い状態に戻す為に栞と組み手を繰り返しやった。栞は元々体術をそこまで得意としているわけではないが、それでも相手には不足なしだった。


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