零の旋律 | ナノ

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「……そうだね。きっとそうなんだ。俺は死にたいから強くなることを拒んだ」

 それでも、必要に迫られて戦えないままじゃいられなかった、だから剣技を身に付けたし魔術も扱える。それだけのこと。否定は出来ないのならば肯定しか残されていない。

「けど、もうそれも関係ないよな」

 銀髪が瞳を瞑れば油断大敵とばかりに銃弾が身体を蜂の巣されながら再生と破壊を繰り返す。

「結局、世界を滅ぼせば全てわかることなんだから」

 無意識は意識してしまった瞬間から無意識でい続けることは叶わない。ならば認めてしまえばいいのだ。
 強くなることは死ぬ可能性が低くなることであるのならば、強くなることを拒絶していた自分を。
 銀髪は謳うように魔術を唱え始める。小鳥のさえずりのような美しい音色。それを妨害するように降り注ぐ銃弾の音など、誰の耳にも入らない。怜都がいくら攻撃しようと、銀髪は死ぬことがないのだ。
 ならば何故攻撃をする――? そう問われたら怜都は満面の笑顔でこう答えるだろう。海璃が生き残るために、と。
 海璃が最期の楽園の浸食を減速させるための切り札であるのならば、それを妨害する存在を邪魔し続ければいいのだ。体力が底を尽きても気力が尽きなければ戦える。血だけになって意識がもうろうとしても、怜都は戦い続けられると確信していた。
 銀髪の魔術が静かに発動する。波打つ波紋のように、徐々に広がって崩壊していく。だが、怜都にとってその程度の魔術は見なれたものだった。今ある場所を崩すような破壊の魔術。だが、魔術師の総本山と呼ばれる雅契家の、当主であるカイヤならそれこそ詠唱をせずともこの程度の魔術はやってのける。
 怜都は足をもつれることなく軽々と術を切り抜ける。その卓越した体術で。
 銀髪に焦りはないし怜都に焦りもない。銀髪は不老不死という力があるし、怜都は暗殺者としても実力があり、何より銀髪よりも圧倒的な戦闘力を誇っているが故の余裕もあった。
 不老不死は殺せなくとも捕まえることもあしどめをすることも――戦うことも可能なのだ。


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