零の旋律 | ナノ

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「答えるのならば、俺は別のことに時間を割きたかっただけだ」
「嘘だな。何百年の時を有して生きたんだ、他の――自分たちが死ぬという目的を達成するためにならば、強くなる必要はあっただろう。誰にも負けないくらいに強くならなければ――殺せずとも捕えられる可能性は常にあったんだから。強くなればそんな心配もなくなる」
「色々と物語を組み立てるのには何百年と時間がかかってしまっただけだよ」
「そんなはずはないだろ? お前が結局組み立てた物語は全員を殺すだけであり、その力は最期の楽園に頼りっきりといっても過言ではない。確かに筋道を立てられているし、不測の事態が起きても対処できるようにありとあらゆる手段を用いている。一朝一夕では出来ないことはわかる。だが、それに数百年の歳月が必要なはずがないだろう、お前と違うんだ――人間は同じ場所に立っていない。生まれ、死ぬ定めだ」
「……それはね」
「恐れたからだろ」

 銀髪が次なる言葉を紡ぐ前に怜都が決定的な一言を言い、逃げ道を無くした。

「何を」
「お前は強くなることを恐れたんだ。俺たちみたいな側の人間は強ければ強い程死ぬ可能性が減って行く。だから――死ぬ可能性が減ることをお前は恐れたんだ。例えそれが意味のないことだったとしても、もし自分がたいして強くなければ――何時か誰かが自分を凌駕した力で殺してくれるんじゃないか、そんな甘い幻想を抱いたから強くなろうとしなかったんだろ」

 彼は薄々感づいていたのかもしれない。それでも首を縦に振らなかった。

「それならば姉さんは――虚はどうなるのさ」

 銀髪と違い姉である虚の戦闘能力は貴族が一丸となって挑んでも勝てるかどうか怪しいほどだ。それこそ不老不死という力を除いても。

「虚にとっては死を求めることは別にどうでもいいんだろ? 虚にとって何よりも大切なのは死ぬことではなくて虚偽、お前なんだから。お前を守るためにならば誰よりも強くなってお前を守ってやればいい、そう思っただけだろ。虚の目的意識の方がお前よりよっぽどわかりやすいさ」
「……姉さん」
「知っているんだろ? 虚がお前のことをどれだけ愛しているか。だからお前が死を求めるために強くなる道を選ばなかったことだって虚はお見通しだ」

 虚ではない怜都が何をそこまで断言出来る、そう言って嘲笑してしまいたかった。けれど、そう笑ってしまったら自分のことを含めて全てを否定するような気になって、何より妹の血を引く怜都だからこそ、何も言えなくて――あぁ、表情ってどうやって作っていたのだろうか。
 わからなくなっていく。その間にも海璃は浸食を遅くしていっているというのに、その間にも繚と雛罌粟は戦っているのにまるでその空間だけが無音に支配されたように思えた。


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