零の旋律 | ナノ

第九話:無意識でいられないのならば


 銀髪がレイピアを向けようと軽々と交わす怜都。銀色の髪が宙を舞う。流れゆく銀の輝き。

「あぁ――」

 思わず声が漏れる。手を伸ばせば振られそうな距離にある怜都。それはまるで兄弟といわれても不思議ではない自分たちと似た顔を持つ青年。
 白冴家は元々三兄弟だった。姉の虚と虚偽、そして妹がいた。そして妹だけは不老不死になることを免れた――姉と兄が犠牲になることによって。そのことだけは今でも後悔は微塵もしていないし、後悔なんて言葉がよぎったこともない。妹はその後、姓を白銀へと改めて白銀の血筋を作り上げたのだ。
 だから白銀の宿願は白冴の願いを叶えることとして、何時も影で支えてきたのだ。妹はいつか死を望む兄と姉のために白銀という存在を残した。
 だから、虚偽にとって怜都は親戚であった。中でも怜都は今までの白銀家の中でも特に虚偽に似ていた。
 だから感情移入するな、という方が無理な相談である。いくら虚偽は目的のために手段を選ばず、盤上の駒を動かすように物語を進めようとしても――どうしても、捨て駒とすることが出来ない駒がいくつもあった。彼らを最終的に殺すことがわかっているのに、それでもそれまでは守ってあげたくなる。
 しかし、怜都の存在は守ってあげたくなるほどの駒ではなかった。何故ならば最初から自分を裏切るとわかっていたから――ではない。ただ、守る必要がないのだ、と虚偽はわかっていた。
 怜都には海璃の存在がいた。海璃がいる以上自分が傍にいる必要性は全くない。

「一つだけいいか? 何故、虚とは違ってお前は弱いんだ」
「はは、俺にそんな質問をするか?」
「するな。反旗を翻した今だからこそするんだ。お前だって――虚と同じく何百年の時を生きているんだ、その気になれば誰よりも――虚には及ばないかもしれないが、それでも誰よりも強くなれる機会はいくらでもあったはずだ。それなのにお前はその程度の腕前しかない“不老不死”という最強の切り札があるだけだ」

 怜都がそう口にしている間にも、長い袖の中に仕込んでいたナイフが銀髪の腹部を貫通する。鋭利に尖らせたナイフが風を切るように投擲をした怜都の腕前によって、本来ならば柄の部分で止まるはずのナイフが、肉を裂いて通り過ぎたのだ。それだけの苦痛でショック死をしても不思議ではないのに、銀髪は平然としていた。
 ――その程度の痛みは昔に体験済みだ。


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