零の旋律 | ナノ

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 銀髪が海璃に届くよりも早く海璃が弓を射る。しかし、空中で矢は止まった。何事かと繚は驚く。しかしすぐに合点がいった。宣告より一言も発せず微動だにしない雛罌粟の手に、いつの間にか扇子が握られていたのだ。
 ――成程、結界か。なら
 繚は厄介な結界術師を片付けようと動く。何より銀髪の相手は自分の主である怜都一人がいれば十分だと心から思っていた。
 ――怜様は誰にも負けないんだから。
 ならば、自分のすべきことをして怜都が少しでも楽になれるようにすればいいのだ。

「はぁつ!」

 気合を込めて放つ一撃を雛罌粟は扇子を掲げただけで作りだした結界によって防ぐ。何度斬撃をくわえようとも結界は微動だにしない。

「流石、結界術師として右に出るものがいないって言われる程の腕前だね!」

 それでも繚に焦りはない。雛罌粟が得意としているのが結界であり防御であるのならば、それさえ破ってしまえば此方のものであるからだ。

「褒め言葉として受け取っておこう。しかし、じゃの、お主ごときに破られる結界を我は作るつもりはないのでな」
「ひっどいなぁ。僕ごときって――その僕ごときの力みてみなよ」

 朝霧繚は口元に歪んだ笑みを浮かべた。それは何処か梓を彷彿させる歪みを雛罌粟は感じた。
 それと同時に、理解した。この少年はすでに手遅れな所で壊れているのだと。無邪気なままに無知で無垢なままに理不尽で残酷な世界に晒されて壊れてしまったのだ。そしてそのまま壊れた世界へ足を踏み入れたが故に、壊れたままのことに気が付きもしないで笑っているのだ。
 繚の細うでから繰り広げられる斬撃は一発一発に重みは対していない。ひ弱というわけではないが、それでも剣を扱うものの力としては弱い部類に入るだろう。
 だが、力のなさを補うように素早い連撃を繚は披露するのだ。でに残像だった。それほどまでに一撃一撃の速度は素早かった。
 もとより戦士でも剣士でもない雛罌粟にとって、その刃を見きるのは容易ではない。
 それでも――雛罌粟には絶対的な防御力を誇る鉄壁の盾がある。だからこそ、繚がどれほど連撃を繰り出そうとも結界にひびが入ることはなかった。
 並大抵の結界では、繚の攻撃を防ぐ手立てはなかっただろう。しかし相手は結界術師として右に出る者はいないといわれる程の実力を有する雛罌粟だ。結界を破ることは未だ叶っていない。


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