零の旋律 | ナノ

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「そもそも最初に裏切ったのはお前たちだ。俺は海璃を手にかけようとする奴を絶対に許すわけがない」

 最期の楽園の進行を遅らせる弓矢を放った時、虚は海璃を殺そうとした。ならば、海璃を殺そうとする不老不死の味方をする必要は到底ない。

「ま、どっち道俺たちに協力をしていれば、翆鳳院海璃は死んでいたのだから何処かで裏切るとは思っていたけれど――それを『白銀』は許したのかな?」

 些細な疑問だった。白銀怜都は別として、白銀の性を持つ者は怜都ただ一人というわけではない。何より水霧や朝霧、夕霧などの白銀家へ仕える分家も存在するのだ。

「はっ」

 怜都は嘲笑する。

「そんなもの、俺に逆らう奴らを生かしておく必要が何処にある」

 残酷で冷酷で無慈悲。海璃以外を大切と思わない怜都が発する言葉には一片の温かさも込められていない。
 瞳に宿らない光は、海璃以外誰も見ようとはしない。例え怜都と同じ位置に立つ水霧双海だって、それは同じだった。ただ、海璃ではない他の人間と比べた時、双海の存在は僅かに浮き出ているだけのこと。
 信頼もしているし、信用もしている。けれど――大切ではないだけだ。

「あぁ、成程。まぁ君ならそういった答えが来るとは思っていたよ。まぁ怜都、君が敵にまわろうがなんだろうが構わないけれど――僕たちの邪魔はしないでくれるかな」

 銀髪は鞘からレイピアを抜く。純粋な戦闘力では怜都には及ばない。それは百も承知だ。しかし銀髪にとっては絶対的なアドバンテージが存在する。それは不老不死であること。この忌まわしい力があるからこそ、罪人の牢獄で最強と謳われていた榴華と戦った時も勝つことが出来たのだ。
 それに今回は雛罌粟が隣にいてくれる。それは何よりも心強かった。そして――心苦しかった。最期まで一緒にいてくれる雛罌粟を、最期は殺すことになるのだから。

「邪魔はするさ、海璃がこの世界が滅んでほしくないと思っている以上、俺は海璃の思いを叶える」
「僕は怜様がそういうのなら地の果てだろうが奈落の果てだろうがついていくよ」

 無邪気に繚は答えた。繚にとっての大切な人は怜都である。その怜都の望みを叶えてあげたいと思うのは当然のことであった。

「確かに、エカルラートは血の歴史によって成り立っています。けれども、それを滅ぼしてしまっていいとすることは誰にもしてはいけないことです。例え数多の罪の上で成り立とうとも、その罪が全ての人類に及んだとしても、それでも――それが全ての悪ではないのですから」

 海璃は弓を構える。海璃が扱うのは最期の楽園の力を遅延させること。最期の楽園の浸食を少しでも遅らせる必要がある。だからこそ、この場にいる。

「全く持って――綺麗事のように見せて残酷だ」

 銀髪は走り出す。目的はこの中で一番厄介な海璃だ。戦闘能力面だけで見るならば、一番害がないように見えるが、それでも――最期の楽園の力を遅延させることが出来る力は厄介極まりなかった。


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