零の旋律 | ナノ

第八話:狭間の光


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 海璃と繚、そして怜都は最期の楽園へ挑もうとしていた。最期の楽園から発せられる清浄な猛毒は既に作られた大地にすら及んでいた。罪人の牢獄と外界を結ぶ唯一の移動手段である螺旋階段周辺は既に浄化された後で、清浄な力によって踏み入れることは叶わないし、そこから漏れだす力がさらに周囲を浄化していっていることは、眼前の景色ではっきりとわかった。
 何故ならば、そこは一面の半透明さがある白だったからだ。ただ無に帰す。それだけを表現しているような白さ。偽りで彩られた世界を壊す唯一の力だ。

「この世界が偽りで作られていなければ、このような結末はなかったのかもしれませんね」

 海璃は重鎮な声色で口を開いた。

「最も、偽りで作られなければ既にこの世界は滅んでいたのでしょうが」

 嘗て、世界が一度人々の手によって滅びかけた時、人々は死にたくなかった。生きたかった。その思いが不老不死を作り上げ、罪人の牢獄を作り上げ、そして大地を浮上させた。偽りで作り上げて本物を消し去ったのだ。

「いくら私が歴史を知っていようと、それは所詮文献の中の出来ごとでしかない。それが真実だったとしても――私はそれを目の当たりにしたわけではありません。ですから、貴方たちにかける言葉は本来何一つとして残されてはいないのでしょう」

 海璃は意図的に感情を抑えようとして淡々としながら、告げる。
 最期の楽園の力を最初から恐れていないのか、海璃たちよりも近い位置に不老不死である白冴虚偽、通称銀髪の青年と、結界術師であり罪人の牢獄第二の街支配者だった雛罌粟がそこにはいた。
 その時代を生きた虚偽はともかく、雛罌粟にとって最期の楽園は脅威であるはず、それなのに雛罌粟の瞳からは一片の恐怖も読みとれなかった。

「むしろ例え僕たち白冴を除いた中で一番熟知していようとも、当時を経験していない君にかけてもらいたい言葉は何一つとしてないよ」

 冷酷に切り捨てる言葉を銀髪は告げる。

「でしょうね。ですから私は何も言いません。ただ――私に嘘は通じませんよ、それだけは言っておきましょうか」
「わかっているよ。それに翆鳳院を前にすれば“嘘”は“真実”と同義だ。君たちにとって嘘とはそういったものなのだろうからね」
「えぇそうですよ」

 海璃はにこやかに告げる。この柔らかい頬笑みが、怜都の心を何度も癒してきた。
 銀髪の視線は怜都へ向かう。白銀一族、それは白冴が不老不死になった後、白冴に全面的に協力をし、不老不死を死なせることが一番の目的だった一族、その当主が目の前に敵としている。

「怜都は結局、俺たちを裏切ったんだね」

 別に悲しいとは思わなかった。怜都は今までの当主とは違い、海璃にだけ心を開き海璃だけを大切に思っている。多少の例外はあれども“海璃”という存在を前に置いた時は全て霞んでしまうだろう。
 だからこそ、白銀の絶対的な野望や目的が存在しても、怜都はそれに縛られずに自分が大切だと思っている方を用意に選ぶと想像がついていた。


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