[ 潤は咄嗟に槐へと意識を切り返る。槐がしなやかな指先で空中に文字を描くと、それが光を放ち火の球を無数に降らせる。だが、梓は歩みを止めない。火の球が梓を直撃すると思われた瞬間、梓は速度を一気に速めて火の玉を交わす。優美な動きは音楽が鳴り響いていればサビの部分に入ったと思わせるような盛り上がりを見せる。そして、槐の眼前に迫った梓が眼球へ向けてナイフを突き刺そうとする。素早く潤へ意識を切り替え、潤が巧みな体術でそれを交わす。焔が梓の顔面に向かって銃を発砲するが、梓が瞬時に張った結界によって阻まれる。海棠がレイピアをかざせば、梓はナイフを投げた。ナイフは海棠の腹部に刺さる。今、此処でナイフを抜けば一気に血が流れてくると判断した海棠はナイフが刺さったまま梓へ向かった。 「とりゃ!」 潤が身体を重力に逆らわずに落下するのと同時に足を蹴りあげるが、梓はその蹴りを踏み台として跳躍する。軽やかに舞った梓の元へ、距離を縮めた静香が狙いを定めて発砲する。 「あはっ」 ナイフで銃弾を弾き飛ばすと、静香の頬を銃弾が掠める。 「っいてぇな!」 数の上では圧倒的有利なはずなのに、有利さを微塵にも感じさせない。 梓が軽やかに舞えば舞うほど。その力は増していくのではないかと思うほど、キレが強くなる。 「あははっ」 梓のナイフが潤の足を切り裂く。地面に倒れた潤に止めを刺そうと覆いかぶさってきたため、潤は咄嗟に槐へ意識を切り替え、槐は結界を貼る。だが、振り下ろされたナイフは結界にひびを入れ、そのまま結界を突き破る。やばいと思うよりも早く、ナイフが槐の腹部に突き刺さった。 「がっ――」 痛みで悲鳴が上がる。海棠が素早く駆けよりレイピアでつくことで梓を一刻も早く槐から剥がそうとするが、梓が槐の腹部に突き刺したナイフを素早く抜き去り、レイピアの先端とナイフをぶつける。その衝撃でひびが既に入れられていたレイピアは限界を迎え粉々に砕け散った。 砕け散った破片が降り注ぐ。呆然とするよりも早く我に返ったが、コンマ数秒、それが圧倒的致命傷となり、梓が投擲したナイフが首に突き刺さった。そのまま地面に倒れる。 海棠――声にならない叫びを槐は上げながら指で円を描き魔術を発動しようとするが、それよりも早くナイフが槐に止めを刺した。静香と焔は銃を発砲するが、突如地面から現れた蔓が身体を貫く。 「ふざけんな……!」 辛うじて急所を免れた焔は梓へ近づこうと足に力を入れて、手を伸ばすがそれよりも早く蔓が身体を引き裂いた。その衝撃で血が雨のように降り注ぐ。 勝負がつく時はあっけなく一瞬で終わる。梓はただ一人、この場に生き残った。頬についた血を指先で愛おしそうに撫で指に付着した血を美味しそうに舐める。 「あははははっ」 梓の狂乱の笑い声が何時までも虚空を何処までも響きぬけた。 [*前] | [次#] TOP |