零の旋律 | ナノ

V


「何ぃ?」
「強いやつと戦いたいって、それはいい。だがなら何故一か月以上前の時は栞の制止であっさり引き下がったんだ?」
「あぁ、あんときはねぇーちょっと用事があって戦闘に時間がかけられなかったんよぉ。時間があればそのまま引き下がらずにいたんだけどな」

 用事を優先するために、栞のいうことを素直に聞いただけ。
 用事がない現状ではいうことを聞く必要も引き下がる必要もない。勝敗がつくまで勝負を続ければいいだけの話――その時蔓が無数に榴華の紫電と重なる。

「あ、梓!?」

 そして蔓は榴華の作った紫電に隙間を作る。その隙間から悠々と梓が歩いてきた。

「楽しそうなことをぉ私のいないところでぇしないでよぉ」

 ナイフを片手に嬉々として梓登場。

「梓さん」

 兄の方が梓の登場に反応する。フランベルジュはいつの間にか収められている。

「私も殺るぅ。血みたいわぁ」
「いいや、撤退させてもらいますわ」
「えー詰まらないわぁ」
「撤退させてもらいますわ。ほら行くぞ」
「あぁ、わかってるって」

 兄は二回告げ、梓の作った隙間からこの空間に留まりたくはないといわんばかりに早足で逃げていく。
 梓は詰まらないと言いつつ時に気にした素振りを見せない。

「おい、ちょ、まちいや」

 榴華は止めようとしたが、制止することなく隙間から二人は出て行った。榴華はこれ以上紫電を使い続けても意味はないとすぐに解除する。
 襲ってこないのなら、態々向かっていく必要もないと判断した。
 二人が何故梓を見たら戦意を失ったのか気になったが、それを梓に直接問うた所で梓は真面目に答えないと判断し榴華は最初から問わない。
 その結論にいたったのは何も榴華だけではない。

「あぁ、せっかーく血祭りが見れると思ってきたいしたのにぃ、あははっ」

 いつもの調子で、梓はナイフをしまう。

「でぇ、なんで榴華たちが此処にいるのぉ?」

 珍しい来訪者達に梓の視線が行く。

「何人か、私の知らないのがいるけれどぉ」
「ちょっくらあれに用があってきたんよ」

 本当は朔夜が誘拐されたから足を運んだ。しかしそれを告げる必要はない。

「珍しいわねぇ、あれにあったら刺した?」
「いや、梓やないから刺しとらんて」
「つまらないのーまぁいいわぁ。私がその分沢山刺すからぁ、きゃははは」

 くるりと梓は一回転する。
 そしてそのまま榴華たちを素通りして自宅の方へ向かった。銀髪を刺す為――だろう。


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