W 「どうした?」 「蔓の攻撃が多すぎて結界が破れそう」 「……まじ?」 「まじで」 「どうすんの?」 炎で焼き払うにしても距離が近すぎる。下手に炎を放ち結界が壊れてしまえば自分たちまで焼き殺されるリスクが高まる。焔は結界術を扱えないし、扱えたとしても槐の術を防ぎきるほどの結界術はまず無理だ。 「潤がなんとかしてくれるさ」 潤? と焔が問うより前に答えを直感した。何故ならば槐の纏う雰囲気が一気に変わったのだ。具体的に、と問われれば焔は少年である槐が女性的で凛々しい雰囲気に変化したと答えるだろう。 それほどまでに、槐という身体は同じでも纏う空気が違った。 「全く、私は魔術が苦手なんだけどね」 困った、と槐――否、潤は言いながらも口元は苦笑しているだけだった。 「アンタは?」 明らかに槐ではないと焔が問うと潤は凛とした口調で答えた。 「あぁ、私は潤。槐に眠るもう一つの人格――多重人格だと思ってくれて構わないよ。さて、焔。結界を解除したら私が道を作る。その後ろに続いておいで。この蔓たちはどうやら有限ではなく無限と考えた方が都合よさそうだ。となると彼女本体を片付けるしか手はないだろう」 「わかった。しかし何故俺の名前を?」 槐には自己紹介をしたが、しかし潤にはしていない。 「そんなことは簡単さ。私たちは多重人格といえど、出来ごとは共有している。潤の間に起きた出来ごとも、槐の間に起きた出来ごとも私たちはみているのだから問題はないよ」 「成程な」 「それと、槐は見ていてわかっているだろうけど魔術を得意とする遠距離型……典型的な魔術師だ。そして私は接近戦を得意としていて魔術は苦手だ。戦闘では得意となる場面でお互いを切り替えて戦っている。人格が途中で変わったとしても驚かないでおくれよ」 「了解だ」 予め言われれば、驚かないことが無理だったとしても戦闘に支障をきたすことはしない。 焔は痛みがまだひかない手で拳銃を握る。至近距離からであれば痛みがあったままでも問題ないと判断した。 「なら、行こう」 啖呵をきると同時に結界が溶解してなくなった。潤の手には槐の間では使われることのなかった拳銃が握られている。成程と焔は納得する。使われなかった拳銃は槐の武器ではなく潤の武器だったのだ。 潤は宣言通り蔓を退けて道を作った。蔓に対して銃を発砲して着弾した衝撃で怯んだ蔓に対してとび蹴りを食らわせたり、刃のような手刀で蔓を次から次へと倒していった。 [*前] | [次#] TOP |