U 「きゃはっ」 余裕の表情しか梓には見られなかった。一見すると無造作なナイフ捌きだが、それでも的確な場所を抉ろうと振り下ろされる。間一髪のところでナイフを受けとめると静香は体制を立て直すべく後方へ下がった。途端、蔓が梓を守ろうと出現する。 「おい静香!」 「知るかっ! あいつなんだよ、ナイフ捌きも滅茶苦茶上手いっ」 「……蔓の魔術だけじゃなかったのか」 「蔓の魔術つーよりも、自動防御魔術って考えた方がいいのか……」 「だな。どうする?」 焔は位置を移動して静香の隣に並ぶ。遠距離を得意とする焔と静香では、梓と対峙するには分が悪かった。だが、焔の中には撤退をするという二文字は含まれていない。 「蔓を一気に焼き払って銃弾を届かせるしかないだろ。ナイフ捌きはお前より上なんだろ?」 「あぁ」 静香はナイフをしまう。これ以上ナイフで接近戦を試みた所で、ナイフ捌きが静かよりも上な梓に勝てる見込みはなかった。ならば、不利なフィールドだったとしても、自分の得意分野で戦った方が、まだ分がいい。 「なら焔、偽名に恥じない魔術を頼んだ」 「どんなだよ。第一炎系統魔術が得意だから“焔”にしたわけじゃないんだからな」 「知っているさ、それくらい」 焔は、ただ単に焔が愛した彼女の名前の一部からとった名前でしかない。 「いくぞ」 「あぁ」 焔も静香も、短期決戦を決めようと動く。梓の蔓の魔術がいかなる原理で発動しているのか、魔術を専門としていない二人には皆目見当もつかない。だから、長期戦に持ち込めば有利、そんな悠長なことは言っていられなかった。 時間が経てば経つほど、恐らく不利になるのは自分たちなのだ、と培ってきた戦闘経験から判断する。 焔は銃弾に魔術を込めてリロードし、焦点を梓の瞳に合わせて発砲する。 炎を纏った弾丸は、前回と同じく蔓に阻まれる。そして蔓が燃やされる瞬間、静香の拳銃が立て続けに発砲する。 炎で焼かれた蔓から新たな蔓が生まれる前に連続射撃をすれば、一発くらいは梓の元へ届くだろうと。 だが、その考えは甘かった。確かに蔓の包囲網をかいくぐって銃弾は梓の元へ到達した、だが梓はそれをナイフで弾いてしまったのだ。蔓に覆われ、炎が覆い尽くした視界の中で、銃弾を捌いた。 その事実を知ったのは銃弾が静香の頬をかすめた時だった。 「なっ――! このやろっ」 静香は手慣れた動きでリロードをして素早く連射する。しかし、ただの銃弾では蔓を貫通することは出来ず悉く遮られてしまう。 そして――今まで蔓は防御しかしなかったのだが、攻撃態勢に切り替わり無数の蔓が襲いかかってきた。 「うおっ!」 焔と静香は一斉に交わすが、いかんせん数が多い。 「だっあ! なんだよこいつら」 焔が魔術を込めた銃弾をリロードしようとするが、それより早く細い蔓が襲いかかって来て、拳銃を弾き飛ばしてしまう。衝撃で手首を痛めたのか、渋い顔をする。 そして、容赦なく襲いかかってくる蔓。静香が援護して焔を助けようとするが、間に合わない――その時、蔓一面を覆うように円陣が地面に出現したと同時に炎が龍のごとく迸り蔓を全て灰燼に帰した。 [*前] | [次#] TOP |