零の旋律 | ナノ

第七話:叶えたい命令


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 朱宮梓は、政府が管理している時計台に近い位置で、真っ赤な死体を地面にひれ伏せて立っていた。血濡れた赤に染まる彼女は妖艶で狂気じみているのに何処か圧倒的な美しさを誇っていた。真っ赤な薔薇を具現したら彼女のような人になるのかもしれない、そんな思いを抱かせるほどに、彼女は美しかった。

「あははははっ、きゃはっ。どいつも弱くて詰まらないわぁ。もっと私を楽しませてぇ」

 間延びした声で彼女は笑う。

「あらぁ? お客さーん?」

 足音が聞こえて、梓は振り返る。時計台近くは高台となっており、この場所へ来るには階段を上ってくる必要があった。赤く染まった芝生、死体が地面にひれ伏す惨劇と化したこの場で輝きを放つ梓に、来訪者は眉を顰める。

「……凄惨だな」
「いろんな現場を見てきたつもりだったけど、此処まで酷いのは中々ねぇよな」

 二人の来訪者は凄惨な光景を作り出した元凶を殺そうと、好戦的な雰囲気を醸し出す。梓にとってそれは最高の餌でしかない。途端、彼女を守るべく蔓が無数に現れる。

「きゃはっ。ねぇ次は私にどちらが狩られてくれるのかしらぁ」
「どっちも狩られてやるつもりはねぇよ」
「同意」

 そう言って二人――焔と静香は拳銃を構えた。


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 時は少し遡る。律から返事がなかったことに違和感を覚えた焔は全力で律がいる場所へ向かった。呼吸を乱し、汗を流しながら到着したが、時すでに遅く、律は息をしていなかった。ただ、その表情だけは絶望しているように見えなかった。恐らくは律が主と定めた泉と最期の邂逅が果たせたのだろうな、と焔は律の表情を見て解釈した。

「……たく、馬鹿かよ。自分の命より目的が優先なのか?」
 ――例え、俺がいても結果は変わらなかったのかもしれねぇけどさ……
「なら、俺はお前の目的を遂行するための手伝いを続けるだけだな」

 白き断罪を抜けて律と行動を共にするようになった焔に、律は無理難題を平気で押しつけた。それを無理矢理解決するものだから、律はさらに無理難題を押し付けてきて、胃が痛む思いだった時もあるし、禿げるんじゃないかと危惧したことも幾度とあった。
 けれど、死なれて欲しいと思ったことは一度もなかった。
 ――あぁ、なんだろこの焦燥感。なんだろ、この空しさ。
 ――あぁ、そうか。反発しながらも結局、味方でありたいと思ってしまったのか。
 焔は心の思いに怱々に決着をつけて、静香と合流した。
 静香は白き断罪に属するより以前の同僚であった。そして、同僚はもう一人いた。焔の彼女である女性。しかしその女性は何者かに殺された。焔と静香はずっとその犯人を探していた。
 そして――静香が所属していた組織内で、弟のように可愛がっていた遊月千歳が殺され、殺した犯人である荻羽と対峙した時に二人は復讐の相手を見つけた。結果復讐は叶った。
 その後の思いがどうであれ、それを目的して生きてきた数年間は無駄にならなかったと、二人は思っている。そして復讐が終わった後も焔は律の手伝いをしていたし、そこに静香が加わるようになったのだ。


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