零の旋律 | ナノ

V


「全く流石は人形師の人形か」

 雪城は嘆息する。予想を遥かに上回って個々の独立した動きをする人形たちは手強かった。
 もとより、元々雪城は攻撃魔術を得意とする魔術師ではない。体術も嗜んではいるが、雪城の本分は魔術である。だからといって攻撃魔術が扱えないわけでは微塵もない。

「溶けよ、解けよ、融けよ」

 とけよ、と雪城は言葉を繰り返す。雪城の掌から溢れだすのは解けた雪だ。それと同時に、雪は吹雪く。人形の肩にも雪城の髪にも雪が積もる。人形はしかし雪を気にする様子はない。直接的な攻撃を有していないその雪に気を止める必要はない身体だ。生身の人間であれば、この急激に冷えていく空間によって寒さで身を振るわせるかもしれないが、人形に気候変化も気温変化も気にする必要はなかった。灼熱の暑さだろうと、極寒の地だろうと人形は平然とする。もとより意思らしい意思は持ち合わせてはいない。

「さて、私としても何時までもお前たちに時間を取られるわけにはいかないのでね」

 悠然と告げる雪城に向けて人形たちが一斉に間を詰めてくる。その時、解けた雪が宙を舞った。
 人形たちは気に留めず一歩を踏み出そうとしたが、しかし足が凍りついたように動かない。足元を見ると、足が氷漬けにされていた。さらに解けた雪が身体に染みつくと同時に、解けた雪と、積もった雪が合わさってそこから氷が生まれた。

「そして氷結せよ 雪氷」

 雪城が詠唱を完成させると同時に、人形たちの全身が氷漬けにされた。全身を凍らせられてはいくら人形とは言え身動きが出来ない。

「さて、あいつらの加勢に行くか」


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