零の旋律 | ナノ

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 泉は鞭をしならせて人形へ先制攻撃を仕掛ける。鞭を人形は素手でつかみ取り、引っ張ろうとするが、それより早く鞭が黒の欠片になって泉の元へ集まる。無数の闇が蠢く。泉の術が大地を切り裂き人形を飲み込もうと迫る。空を飛ぶほどの跳躍で人形は泉の後へ回り込んだ。闇が人形の攻撃から泉の身を守る。しかし、それよりも強い力で人形は闇を破壊して泉へ近づこうとする。そこへ無数の光が具現して人形へ襲いかかる。意思があるように慌てて人形が回避行動を取ろうとすると四方を囲むように銀の柵が現れる。人形は一閃して柵を破壊する。すぐさまそこへ、漆黒の鞭が撓ってくる。だが、人形に当たることはなく、目標を見失った鞭は柵を破壊するだけだった。
 人形は宙を飛び、空中からの攻撃を試みるが、関節の節々が思うように動かない。冷気が空を支配している。雪が舞う。幻想的な雰囲気を醸し出すのに、全てを氷漬けにしてしまおうという意思が感じられる。

「やはり、貴族は中々に手ごわい」

 虚が人形を操りながら呟く。魔術師雅契カイヤ、情報屋玖城泉、武芸者鳶祗汐、幻術師水霧双海、魔術師雪城眞矢、五人が手を組む、それだけで大抵の障害は蹴散らすことが可能だ。
 虚はほくそ笑む。数百年前、まだ大地が宙を浮かなかった頃、彼ら貴族は当時より存在していた。
 不老不死を作り上げる技術、過去の文明は今よりも勝れていただろうが、それでも――今が最高峰だと虚には思えてならなかった。貴族たちの実力は全てが飛びぬけている。一部が突出していた過去とは違うのだ。
 もしも――そんなことを願うのことを虚は嫌っている。だからもしもを想像しない。
 それでも、もしもを語るなら“銀髪の青年”はこう苦笑しながら答えただろう。

『もしも、彼らに協力をお願いしていたら僕らはこんなことをしなかったのかもしれないね』

 銀髪の青年――虚偽にとって、自分たちを『不老不死』にした、この国に恨みはあるが故に、『復讐』を何だかの形で取ったかもしれない。しかし、自分たちが死ねるのであれば『世界を滅ぼす』という極論にまでは至らなかったかもしれない。
 そんなことは今さら。
 そんなことは叶わぬこと。
 それがわかっているからこそ、世界を滅ぼす。

『最期の楽園の力を使って。過去に失われるはずだった世界を、今再現するだけだ』

 その時、不老不死から解放される可能性を願って。


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