零の旋律 | ナノ

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 何事かと、目を見開く。そして見知らぬ人物に顔を顰めた。
 一方の水渚は驚きと驚愕――喜びに表情が定まらない。
 夢か、幻か、偽りか――現実か。

「ち、千朱ちゃん!?」
「よっ」

 手を軽く上げて、挨拶をした。その人物――千朱は金色の髪と瞳。茶色と黒をメインにした服装。年の頃合い二十代前半。

「ほ。本物!? 偽物じゃないよね!?」
「千朱!?」

 水渚の声に朔夜の視線も水渚の方へ行き、そして千朱の姿を確認する。
 嘗て、水渚を失脚させようと罪人が企んだ事件により数年もの間目を覚ますことのなかった人物がそこにたっていた。昔と変わらぬ笑顔で、昔と変わらぬ態度で、昔と変わらぬ言葉で

「本物だよ、俺を疑うのか?」
「千朱ちゃん、良かった。目覚めたんだね、あははっ」

 水渚の忘れ去っていた感情が蘇ったかのように、声に色がつき始める。

「千朱――」

 一人千朱が目覚めたのを知っていた栞は、優しそうに微笑みその現状を見守っていた。
 といっても兄の方が大人しく何時までもしているはずがない、フランベルジュを握り締め襲いかかる。
 それを千朱が受け止める。その背後から水渚が術で攻撃を仕掛ける。
 連携があるのかないのかわからない――それでも楽しそうな笑顔で。

「お前俺ごと殺すつもりか!?」

 水渚の沫は千朱も下手をすれば攻撃範囲に含まれていた。慌てて千朱はその場をどき、水渚に向かい叫ぶ。

「あははっ、油断大敵だよ。だって僕は千朱ちゃんが大嫌いなんだもん」

 嘗て何度も繰り返した言葉を笑顔でいい

「そうだったな、俺も水渚が大嫌いだ」

 嘗てと同じ意味を含め返す。

「なんだ?」

 急に様子が変わった水渚に怪訝する。一体何が起きたのか。感情を感じさせない淡々とした声から一片、楽しそうな――笑っているような口調に。そして動きも先刻よりずっと軽やかだ。

「ちぃ、何だかわからねぇが面倒だなぁ」

 心底面倒そうに言ってからフランベルジュを握り締める――掌に汗をかいていることを実感しつつ。
 榴華の紫電が周辺一体を包み込む。それは自分たちだけが牢獄から隔離された錯覚を生みだす。

「なんだなんだぁ?」

 攻撃性のない、かといってその場から立ち去ろうものならすぐに焼き殺されるような――。

「自分ら、なんで自分らを狙うんか一応聞いておこうと思いましてな」

 榴華が問う。千朱の存在を榴華はよく知らない。それでも六対二、うち支配者は元を含めれば三人もいる状態で逃げることも臆することもなく戦う二人に興味が沸いた。

「特に理由はないよ、しいていうなら強いやつところしあいたかっただけぇ」

 爛々とした瞳で弟の方は返事をする。

「だから、自分らが支配者だと知りながらも戦ったゆーことか?」
「もっちー」
「待て」

 篝火が加わる。強い相手と戦いたいなら、この間あっさりと退く必要はない。勝敗がつくまで戦い続ければいいだけのこと。


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