零の旋律 | ナノ

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「双海は能力的に虚相手にした方がいいだろう? 俺の戦法は別段汐と大差ないんだからな」
「そうだな、幻術が使えた方がいい」
「それにしてもお前がすんなり俺を此方側にすることを同意するとは予想外だったな」

 怜都の言葉に、泉は僅かに感情を宿して答える。

「別に、お前が此方側に来ることに関して損はないからな」

 それにといって泉は繋げた。

「利害が一致したら手を組むのが俺たちだ」
「はっ、そうだな」

 白銀家と玖城家は、鳶祗家と雅契家のように犬猿の仲の家柄だった。だが、二人が今まで殺し合いらしい殺し合いをしたことはない。それは一言でいえば、怜都が面倒を嫌う性分だったからだ。
 泉のことは嫌いだが、泉を殺す労力を使うことを嫌ったのだ。だから、お互い刃を交えることは殆どなかった。勿論そこに海璃が介入していれば話は違ったのだろうが、わざわざ泉が時間を割いて海璃を手にかけようとする理由はそもそもない。そして、鳶祗と雅契とは違った犬猿さもあった。それは同族嫌悪であろう。泉と怜都にそれを誰かが告げれば二人して同意するし、否定することはしないだろう。

「なら、怱々に行動した方がいいな。私たちは虚へ、怜都と海璃、それに繚は最期の楽園を頼む。それと……海棠と槐はまだ残っている罪人勢を倒して来てもらえるか?」

 殆どの罪人は罪人の牢獄で倒したが、全てというわけではないだろう。まだ姿を目撃していない罪人の牢獄最果ての街支配者梓が残っているし、第二の街支配者雛罌粟も生きている。
 不老不死ではないとは言え、看過しておくわけにはいかない要注意人物であることには変わりない。

「わかった」
「そうだね、放置しておくには危険だ」

 海棠と槐がそれぞれ同意する。

「雪城……」

 海棠は、今生の別れを予感したわけではない。それでも雪城たちが挑むのは、不老不死であり戦闘能力に関しては最強と言っても過言ではない虚だ。不安がないとは言えば嘘になる。だから海棠は雪城の元へ近づき、そして――唇を重ねた。

「ほう、お前からしてくるとは意外だな」
「偶には、な」
「気をつけて行って来い」
「わかっているって」

 気楽な返事をしながら、それでも表情は真剣そのもので、海棠は雪城に背を向け、槐とともにその場を去っていく。

「ヘタレが珍しいなぁ」

 怜都が正直な感想を告げると、雪城が微笑した。

「ヘタレとか言ってやるな」
「つーか、雪城の方がカッコよすぎて、お前ら男女交換した方がいいと思うぞ」
「どんなだ、それは流石に無理だろう」
「じゃ、僕が開発しよーか? 雪城が男になって海棠が女になる魔術を!」
「いや遠慮する」

 嬉々として手を挙げるカイヤとは対照的に冷静に雪城は断った。つまんないのーと頬を膨らませるカイヤの頭を汐が撫でる。
 和やかな雰囲気が一時だけ訪れる。それはただの気分転換に過ぎない。

「じゃあ、翆に繚、いくぞ」
「えぇ。それでは失礼しますね」
「じゃ、また戻って来るね―」

 怜都と海璃、繚もその場を後にする。時間の猶予はない。


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