零の旋律 | ナノ

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『大嫌いは結局大嫌いでしかなかったんだ』

 そう言って策に嵌められて仲違してしまったその日、同じような日々に戻ることは何年もの間なかった。
 千朱はこん睡状態に陥り、目を覚まさず。目を覚まさなかったことで心を病んでいった水渚は、自分の殻に閉じこもる日々を送っていた。朔夜が魔術で何とかならないかと探し、栞もまた罪人の牢獄で有能な人物を見つけてきては、千朱の状態を見せた。
 決して前に進めなかった時間。だが、日鵺朧埼が罪人の牢獄に訪れたことで止まっていた針は進んだ。
 最後の願い。これで千朱が目覚めなかったら、殺してしまおう栞はそう決意して朧埼に千朱を見せた。
 そして――千朱は目覚めた。あの時の喜び、あの時から元に戻った関係、そして進んだ関係。
 ――大好きな二人。

「千朱ちゃんっ――!」

 栞が弾を必要としない拳銃で連射する。千朱の太股に弾が貫通した。それでも千朱は歩みを止めない。
 水渚の沫と影がぶつかりあって水渚がボロボロになる。
 ――もうやめて! これ以上俺と争わないで!
 心とは裏腹に、心と身体が切り離されたように、栞は攻撃を続ける。

「栞ちゃん! 僕たちが諦めるわけないでしょ。少しはさ、こんな現実だけどさ、だからこそハッピーエンドをちょっとは望んだっていいじゃない」

 心を読んだかのように語りかけ、幾度となく差し伸ばされた言葉、それでも頷かなかった栞。

「ほんと、頑固過ぎるよ栞ちゃんは」

 ボロボロになっても、水渚は笑い、千朱は微笑み。数多の血を流して戦意を喪失してもおかしくない状況で、それでも二人は自分の足で立っていた。
 栞の手は震える。傷つけなくないのに、傷つけているのは自分であって他の誰でもない。どうして傷つけているのだろうか、答えが見つからない。
 迷い込んだ迷路が深すぎて、答えが目の前に提示されていても、それが答えだとは認識しない。
 瞳に溢れた涙が栞の心境を語っているのに、身体は千朱と水渚を――何より栞を傷つける方向に動く。

「どうして――」

 かすれた言葉。

「どうして、千朱も水渚も俺にかまうのさ」

 もう心は限界だった。それなのに、向かってくる千朱の額へ標準を合わせる。

「何って仲間だからだろ」

 答えに沁みる心とは裏腹に発砲される銃弾。交わすほどの動きがもう千朱は出来なかった。銃弾が千朱を貫く。千朱は倒れて数度痙攣した後動かなくなった。
 殺した、そう思うよりも早く、抱きしめてくる温かさ。

「仲間だからに決まっているじゃないか」

 大切な人に出会えた――それでも

「俺は――」

 温もりを手放して栞は拳銃を発砲した――。


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