W 栞の影が襲いかかるそれを千朱はかいくぐって交わし、水渚は泡を踏み台にして跳躍する。宙で一回転しながら、栞へ向けて沫を放つ。影の盾がそれをガードすると同時に、水渚は自分が怪我するのも構わずに爆発させた。爆発の衝撃で視界が一気に悪くなる。栞が咄嗟に腕で顔を守った隙をついて千朱が殴りにかかる。慌てて回避行動を取ろうとして、顔から腕を離した瞬間、頬を殴る衝撃、衝撃を殺しきれず地面を転がる。しかし途中で影へ身を顰めて別の影から姿を現す。赤くはれた頬、唇からは血が流れる。血を栞は腕で拭き取る。 「流石、千朱ちゃんだよね……」 頬がじんじんと痛む。影で姿を現して拳銃で発砲したが、千朱は軽々と交わして栞と相対する。千朱が腕を横に広げた時、後ろにいた水渚がその下をくぐって栞へ向かう。 「栞ちゃん……!」 水渚が得意とするのは沫を使った魔術だけではない。体術もだ。力はないがその分軽やかで一つ一つの動作が素早い。連続した攻撃に、栞は狙いを定めて攻撃しようとしたが、それより早く千朱が栞の腕を掴む。力の限りの握力に栞は顔を顰める。虎の影が千朱へ襲いかかる。それが千朱の腕を食い千切ろうとかみつくが、千朱は眉ひとつ変えない。水渚が掌に沫を作り出して、それを栞へ向けて一斉に放つ。 ――千朱 影の虎は千朱に食いついたまま離れない。このままでは、そんな甘い思いが影の虎の攻撃を緩めてしまう。その瞬間、甘さをつけこまれたかのように、影の虎が千朱の蹴りによって吹き飛ぶ。ぎしり。嫌な音がした。それでも千朱は何一つ気にしない。水渚も笑っている。栞を止める。その目的のためならば自分がどれだけ傷ついても構わない。決意の表れだ。 楽しかった日々がある、笑えた日々がある。だからこそ――笑顔を消させないために動く。 +++ 「ちーあけちゃん! 何してんの?」 千朱がこん睡状態に陥る前、屋根の上でねっ転がっている千朱を発見した栞は、屋根をよじ登るという考えは最初からなく影を使い一瞬で移動し、千朱の顔を覗く。 「あーいや考え事」 「珍しいね、千朱ちゃんは一体何を考えていたの?」 「何でもねぇよ」 ぶっきらぼうに言い放つ千朱の考え事に栞は大体の見当がついていた。しかしそれを追求する必要はなく、千朱の隣に横になる。太陽の光なんてもう覚えていないに等しいけど、きっとこんな風に美しかったに違いない。金色の髪を見て、そう思う。 「(何で、こいつらは俺と一緒にいるんだよ)」 今まで風変わりな金髪と金の瞳を持っていたことで、仲間らしい仲間を持ったことがない千朱にとってこれは不思議な感覚だった。無防備に隣に誰かがいるということに。 「あ! 千朱ちゃんと栞ちゃんだ。屋根の上でお昼寝? 僕だけ仲間はずれなんてずるーい。僕も今行くから顔を洗って待ってろ!」 「最後の意味なんか違うでしょ」 栞はそう言って笑っていた。温かい空間、心地よい場所。 [*前] | [次#] TOP |