第三話:温もり ++++ 「あははははああああああああっ」 叫び声。残骸と化した場所で佇み嘆く姿。 「あっああっっあ、があ」 叫んだところで、結末は変わらない。 そう選んだはずだ、殺すことを選んだ。 「……俺は、選んだんだよ」 最期を見て苦しませるくらいなら、自分一人で背負うと。身勝手だと罵られることを覚悟の上で。 だから――篝火と朔夜を殺したのだと。 地面に横たわる篝火と朔夜、血を流してはいるが、無駄な怪我は一切負っていない。 無駄な怪我は――痛みは与えたくなかった。どちらかが死んで悲しむ相方を見たくなかった。 だから殺す時は一瞬で、両方を殺す。そう決めて栞は実行した。 心を支配するのは溢れるばかりの悲しみ。吐き気がこみあげてくる。 「俺は……俺は……って、なんでいるのさ」 途端にこの世の終わりが訪れたのではないかと錯覚するほどの表情を栞は浮かべる。 来て欲しくはなかった。現れないで欲しかった。何も知らないまま幸せでいて欲しかった。戦線から離脱したのならば戻ってきて欲しくなかった。 「栞ちゃん……」 肩を並べあい、栞の前に佇むのは千朱と水渚の二人だった。 大嫌いで、大好きな関係を築き上げた素直であり素直じゃない二人。そんな二人の悲しむ姿を見たくなくて、水渚の背中を押した。千朱を後押しした。それなのに 「何故此処にいるのさ!」 喉が張り裂けんばかりの勢いで栞は叫ぶ。此処に来ては駄目だ、いて欲しくない。戦いに戻ってくるならば、殺さなきゃいけない。殺してしまう。 ――駄目だ駄目だ、駄目だっ!! 朔夜と篝火のように、今まで手にかけてきた数多の人間のように。殺してしまう。 「栞ちゃんを止めるために、決まっているじゃないか」 「そうそ」 千朱と水渚は朔夜と篝火の姿を目にしながら二人については触れなかった。 遅かったと心の中では後悔の波が押し寄せてきている。それでも今、その話題に触れることは栞を壊すとわかっていた。だから、触れないことにした。 「俺は……!」 「昔っからさ、栞ちゃんは一人で背負いすぎなんだよ。何でも。僕より年下なのに、僕以上に何でも背負って一人で辛い思いをしてきたじゃないか。だから僕は栞ちゃんを止めるために戻ってきたんだよ」 「水渚や朔と比べたら俺と栞の付き合いなんて刹那みたいなもんなんだろーけど、それでも俺たちは栞の仲間だしな」 手を差し伸べてくる優しさ。眩しい光。瞳を背けなければ吸い寄せられてしまう思い。 今の栞には、それがどうしようもなく辛かった。 [*前] | [次#] TOP |