零の旋律 | ナノ

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 爆発の後に残った破壊された瓦礫を腕の力でどかして彼は這い上がる。
 幸いだったのは律が魔術で建物を飲み込んでいたことだ。そのお蔭で、律の魔術よりも広範囲に及んだ爆発で降り注ぐ瓦礫の数が少なかった。
 一瞬の間では、爆発をも防げる結界を作ることは彼には叶わなかった。だから彼――律は死霊を盾にした。それでも全てを防ぐことは叶わなかった。ボロボロになった帽子が手元に落下する。

「……」

 律はそれを大事に拾い上げる。似合わないといわれるピンク帽子、誰に何と言われようとそれは律の宝物だ。幼いころに、泉と郁がプレゼントしてくれたピンク色の帽子。

『律の性格が少しでも良くなるようにっていうのでピンクにしてみた』
『律にぃにピンクの帽子被ってほしかったから』

 手渡された時の、泉と郁の表情は一生忘れない。ものに執着しない律が唯一執着しているもの、それがこの帽子だ。もうこの世に郁はいない、この帽子は郁との思い出が詰まっている。大切にしないわけがない。

「後で……洗わないとな」

 爆発で飛び散った破片に右目をやられたのか、血が流れてきて何も見えない。服はボロボロになり素肌を晒した部分は皮膚が剥がれ血を流している。左足には瓦礫が突き刺さっていた。それを律は無理矢理抜いたものだから一気に血が溢れだしてくる。

「まさか、自爆するなんて……予想外だったよ」

 生き伸びるために、生き残るために力をつけた律にとって、自ら命を立つという選択肢が脳内には最初からなかった。その隙をつかれたことに律は流石天才軍師だと乾いた笑いをする。

「だが、それでも俺は――」

 足音が耳に入る。全く持ってタイミングがいいんだか悪いんだかと律は嘲笑する。

「お前、何やってんだ?」
「やぁ。焔」

 気さくなに手を振ろうとして失敗した。律に近づいてきた人物は、元律の同僚にして、現在は律と手を組んでいる元白き断罪の一員焔だった。狙撃銃を片手に、眉を顰めている。
 
「爆音がしたからきてみりゃ、お前重傷じゃないか。手当するか?」
「……上着を置いていってくれればそれでいい。焔にはやってもらいたいことがある。そっちを優先しろ」
「命令口調かよ。ったく、でどうすりゃいいんだ?」
「此処から南北方向で狙撃に適した建物を見つけたら、そこである人物を狙撃して欲しい」
「わかった」
「厄介なのは始末しないとな」

 生半可な悪人では出すことが出来ないような表情を律は浮かべる。それは怪我を負って血を流しているとは全く思えないオーラが漂っていた。

「あーあと連絡用の一個よこせ。俺の壊れたと思うから」
「わかったよ」

 そう言って焔は両耳にしていたピアスの片方を律に渡した。それは魔術で造られた遠距離で会話を交わすものだ。律はそれをポケットに無造作に閉まっていたのだが、この状態では使い物にならないと判断した。

「じゃ、連絡しろよ」
「はいはい」

 律はまだ残っている建物まで移動して、壁に背をつけ、座り込み貰った上着をナイフで破って止血に当てる。

「(あーくそっ身体中痛くてまともに動けねぇよ……)」


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