T 「……あいつら一か月前より遥かに強い」 以前相対した時はそこまでの脅威を感じなかった。しかし今は違う。油断すれば命が持っていかれる。 雰囲気も以前より何処か落ち着いている。それが余計に恐怖を煽る。 「(本気、じゃなかったのか? それとも何かあったのか?)」 扱っているチャクラムは一つではない、二つのチャクラムを左右で扱い巧みに攻撃を仕掛けてくる。怒涛の攻撃に反撃に出る隙が中々みつからない篝火だったが、榴華がチャクラムをものともせずに接近する。 その途端臆病な程に距離をとる。榴華がかかと落としした箇所は紫電の威力を物語っている。地面の一部が破壊され、色が焦げている。 「楽しいねぇ、楽しいねぇ、たのしいねぇ」 ぎらぎらと輝く瞳のままチャクラムを投げる。単調にも思える攻撃だが、予想のつかない動きを混ぜてきて油断は出来ない。 「なんやねん、自分ら全くも」 榴華の紫電と合わさるように朔夜の雷が落雷する。 意図していたわけではないが、朔夜の雷がチャクラムに掠り方向を変えた。 チャクラムは弟から離れた位置に、住宅に追突する。それをとりにいく暇はない。弟はチャクラム一つで戦う方向に切り替えた。不要に投げることはしなくなる。 「今回は止めようとしても止まってくれないよなぁ」 栞は薄香の拳銃を片手に水渚の援護をしていた。榴華が加わっているチャクラム使いの方は放っておいてもいいだろうと判断だ。 フランベルジュの重みを顧みないような素早い動きで水渚を翻弄する。 水渚の沫が定まらない。 「全く。何なの君ら」 しかし水渚も怪我という怪我は何一つ負っていない。攻撃を全て交わしきる。術者でありながらも身のこなしは軽かった。 「あー当たらないって面倒だなぁ」 心底面倒そうに兄が呟く。それも以前とはまた違う印象を相手に抱かせるのだが、生憎その時水渚はいなかった。 「最果ての街で、わざわざ私に攻撃を仕掛けてくる輩がいるなんて予想外だったよ」 水渚の沫は徐々に個数を増やしていく。相手が巧みに攻撃を交わしてしまうのなら、交わす隙間を作らなければいい。水渚は四方八方を覆うように沫を作り上げていく――しかし、その前にフランベルジュを両手で握り締め、水渚に斬りかかって来る。 ――追いつかないっ 沫の速度よりも早いその動きに水渚は身構える。無傷では済まない。 水渚が怪我を覚悟したその時――兄の背後に飛びかかる人影があった。 そしてそのまま蹴りをかまし、横に兄を吹っ飛ばす。住宅に激突する前に、地面に着地しバランスをとる。 [*前] | [次#] TOP |