零の旋律 | ナノ

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「なら、一緒にいりゃいいじゃん」
「朔……でもね、俺は千朱がこん睡状態に陥ったあの日から、決めていたんだよ。あん
な姿の水渚を見るくらいなら、あんな姿の千朱を見るくらいなら、あんな姿の朔を見るくらいなら! あんな思いをさせてしまうくらいなら! もう何もかもなくなった方がいいんじゃないかって。それ以上に――俺は朔や皆と出会うきっかけを作ってくれた、俺を助けてくれた虚偽の願いを叶えたい。それだけだ!」
「苦しめたくないから、殺すなんて、そんなの身勝手な……殺人じゃないか」
「……知っている、そんなことはとうに理解しているさ! だけど……それでも――俺はそうすることを選んだんだ」
「栞!」
「朔。俺は虚偽が手を差し伸ばしてくれなかったら――多分、何も知らないままに死んでいたんだ。もとより、俺の力を虚偽以外の誰かが知ったら、それこそ俺は殺されていただろうしね。なら、俺は少しでもいいから虚偽に恩返しをするだけだよ。その為に朔や水渚や千朱や、皆が苦しむっていうなら、俺が全部殺して上げるから――苦しまないように」

 叫びは徐々に淡々として心を押し殺しているように朔夜の目には映った。篝火は何も言えない。込み入った事情は知らないが、それでも――栞の決意は何処か壊れているのはわかる。
 だが、それを覆すだけの反論を言えることもなかった。結局、もう後戻りが出来ないだけ。すれ違った二本の糸は一本は絡まっているのに、もう一本は解けてしまったのだ。

「だから――俺は君たちを殺すよ」

 悲しみも嘆きも辛さも、何もかもを影が飲み込んで、影は全てを飲み込む。

「なっ――!?」

 篝火は自分の足元を見て驚愕する。朔夜は腹をくくった。

「栞、例え何があっても俺たちは親友だよな?」
「勿論だよ」

 その答えだけで十分。

「いくぞ、相棒」
「勿論だ、朔夜離れていろよ」
「俺が近づいたって勝てるわけねぇだろ」

 顔を見合わせて苦笑する。迷いも躊躇も排除して、ともに覚悟を決めたのだ。
 例え敵対しても友達は友達。その糸だけは解けることがない。


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