零の旋律 | ナノ

第二話:解けることのない糸


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 栞の影が蠢く。意思があるように――それは躊躇しているように篝火の瞳には映った。篝火は自分の影を気にしながら栞へ向かっていく。朔夜が戦う道を選んでしまった以上、自分は朔夜に加勢すると決めていた。
 プライドが高くて、めんどくさがりで、料理上手で、家事が出来るのにめんどうだ、という理由でやらないから家の中が壊滅的な状態で、大雑把なのに変な所で細かくて、口が悪いのに仲間思いで、態度がでかいのに心配性で、自信家なのに運動音痴で、あげればきりがない朔夜の性格。朔夜とは何かと問われれば脳内で無数の言葉が埋め尽くしてくる。それだけで、今の相棒は朔夜だと思えた。
 ――きっと朔夜も
 篝火の拳が栞の頬を掠める。栞は篝火とは違う軽やかな体術で攻撃を避ける。
 身軽な動作は、水渚と千朱が喧嘩をするようになってから自然と身に付けた動きだった。見切る力も同様だ。二人が喧嘩をするから仲裁に入るのは何時も栞の役目。だから、いつの間にか素早い動きと見きる瞳を身に付けていた。
 ――今頃は仲良くやれているかな。
 脳内で笑いあう水渚と千朱の姿が自然と浮かぶ。想い出に浸りそうになったが、今はそんな場合ではないと戦闘に集中する。朔夜の変則的な光属性の術が炸裂した。無数の光線が容赦なく栞を襲う。一切の迷いはなかった。真剣な瞳に、栞は一瞬戦闘中だということを忘れて微笑んでしまう。光線が栞を襲う瞬間、栞は影へ移動し、別の影から姿を現し攻撃を交わす。

「全く、本当に厄介だな。お前の力」
「それが“影の力”だよ」

 朔夜は無数の雷を落雷させる。雷が地面と激突するたびにコンクリートが割れて舞う。
 雷とは違う所で来る雷の二次被害。足元にコンクリートの破片がいくつか当たったが栞は気にしない。確かに痛みが全くないわけではないが、篝火の体術や朔夜の雷や光に比べたら、蚊に刺されるようなものだ。

「世界が滅んでもいいとお前は思ってんのかよ!」

 別段救いたいなんて大それたことは思っていない。ただ、滅んでほしくないと朔夜は思っているだけだ。
 篝火は間合いを一気に詰めて栞へ殴りかかる。交わされると、勢いが強くそのまま地面に激突しそうな勢いだったが、並はずれたバランス感覚を持つ篝火は片手を地面につけてそのまま栞へ蹴りを繰り出す。それも不発に終わると篝火は体制を元に戻して僅かに距離を取る。

「皆と会えなくなるのは――寂しいし、出来ることなら皆と一緒にいたいよ。でもね――辛いことがあるのは辛いんだよ」

 そうはにかんだ栞の心中はいかほどか篝火には図りきれない。


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