零の旋律 | ナノ

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「まっ、それでも僕は――律君へ挑む道を選んだんだよ」

 双海を放置して置きたいとも思っていないが、それでも優先順位をつけたとき、水波は律を選んだ。それだけのこと。
 律は準備運動のように大鎌を一回転させてから、重心を左足に載せ、一気に踏み込んで大鎌を振り回す。
 残酷なる刃が迫る瞬間、水波は結界を貼って攻撃を防ぐが、たった一撃で結界にひびが入れられた。二撃目はどう考えたって持たない。律は力任せに結界を破壊する。結界に欠片が宙を舞う中、水波は間一髪のところで大鎌を避ける。対象を貫かなかった大鎌は地面を抉る。律は大鎌を肩に担いでから一歩一歩余裕のある歩みで動く。事実戦闘面に関して水波は律の足元にも及ばない。だから注意するべきは水波ではなく水波の周辺であった。何か策を練っているに違いない。そうなると――周り仕掛けている可能性が高いと律は判断していた。水波が弓を構えて放つ。魔術を込めたそれの威力は通常より遥かに上昇しているが、律は乱雑に大鎌を振り回して弓矢を破壊する。

「天かける翼、集え、導きの印の元に」

 水波が素早く詠唱すると同時に、弓矢に翼が宿る。素早く射ると鳥のごとく自在に空を飛び向かう。律が交わすと、翼を宿した弓矢は回転して再び律へ襲いかかる。

「汝盾となり我を守れ」

 律は舌打ちしてから持続性のある結界術を詠唱する。結界が破られない限り対象を守る可動式の防御術であった。律が動いたら、結界も律の周りに再び展開する。そういう仕組みだ。

「……厄介な術を詠唱するよね、君は本当に」

 それでも水波は怯まない。結界を破れないわけではない。ただ本来知略に長けている水波は攻撃的な術はそんなに有していないし、絶対的攻撃力も有していない。

「空へ舞い上がるは水蔓」

 水波の足元に魔法陣が具現し、水で造られた蔓が律を絡み取ろうと無数に手を伸ばすように襲いかかる。律はそれを大鎌で振り払う。切られた蔓は水となり地面をぬらす。

「再生せよ、水蔓」

 水波がさらに魔術を重ねて詠唱すると。地面をぬらした水は再び蔓の形を戻し、戸数を増やして襲いかかる。

「ったく。面倒な術ばっか覚えているんだなぁ」

 律はやれやれとため息をつく。全力でこの場に集中している水波とは違い、律はまだまだ余裕だった。ただの戦闘では水波が自分を負かすことなど不可能だと確信している表情だ。
 それは水波も重々承知している。だからこそ水波は全力で挑むのだ。作戦を成功させるために、作戦を見破られないために。


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