第一話:策略の切り札 +++ 嘆きの先に崩壊する。 止められなかった優しさ。 一旦地上へ逃げた彼らはすぐに別行動を取った。呉越同舟をするつもりはさらさらないのだなと篝火は思う。 「(こんな時くらい手を結べばいいのに)」 否、手は結んでいるのかもしれない。それでも個々の思惑が違う以上、一致団結は叶わなかったのだ。 そして、つけるべき決着が各々にある以上、因縁を清算することなくして彼らはまた進めないのだろう。そんなことを取りとめもなく篝火は考えていた。考えるしか――なかった。 今にも泣き出しそうな顔をする相棒がいるから、今にも壊れそうな相棒の親友がいるから。 矛を交える以外の選択肢があったはずなのに、矛を交える道を選んでしまった彼らがいるから。せつなくなる。 『僕は、君が好きだったよ』 去り際の言葉が脳裏を離れない。嘗ての相棒。好きだと認められなくて失ってしまった相棒。目を瞑れば笑いかけてくる笑顔――そして悲しそうな別れ。 +++ 「ステールメイトのままには、したくないよね」 寂しげな表情を水波は浮かべる。本当は彼らが全てを終えた後に挑むべき勝負なのだろう。だが――と怜悧な水波はそれ以外の結論を導き出す。それでは駄目なのだと。 例え今戦局を傾けてしまったとしても、実行する必要があった。しなければ、結局のところ似たり寄ったりな結末を迎えるのだ。それを阻止するためには“今”が重要だ。 水波は様々な策を脳内に浮かべる。それはまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされる。そこへ一歩足を踏み入れれば後は策にからめとられるだけ。 「律君」 水波が前に立つのはピンクの帽子を被った青年。浮かべる笑みは邪悪そのものといっても過言ではない。人ではなく悪魔だといわれても納得しそうな雰囲気だ。 「何? お前に用はないんだけど」 声をかけられるとは思っていなかった律はあからさまに顔を顰める。律は泉たちと一旦別れ別々の行動を取っている。そもそも一騎当千の実力を有する彼らが一緒に行動する必要性はあまりなかった。せいぜい不老不死と戦う時くらいのものだ。第一数多の死霊を従える律は多勢に無勢とは無縁だ。逆はあったとしても――。 「それは困るな。律君は用がなかったとしても、僕は律君に用がある」 「なんだよ」 「以前、櫟を殺したことは覚えているだろう? さらにその前僕たちが最初に出会った時。いまだに決着はついていないし、僕は放置しておくべきではない危険な存在の一人として君を見ている」 櫟とは元白き断罪の隊長だ。彼を律は殺した。 この戦いに私怨や復讐が零とは言わない。けれど、それを除いても志澄律という男は危険すぎた。 「禁じられるべき術をたった一人で完成させた死霊使い。“そんなものが存在していいはずないだろう”」 水波はそう言って断言――否、断罪するように言いきった。 [*前] | [次#] TOP |