零の旋律 | ナノ

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「眩き輝きを遮断し、全てを飲み込む深淵に使わせし闇の渦よ、光を飲み込め」

 泉は詠唱する。漆黒の渦が途端に結晶の光めがけて蠢き襲いかかる。手を形どった渦が泉夜を飲み込まんと足ともに具現する。慌てて回避を泉夜は取る。その際、足に深手を負った。ずきずきと痛みが脳に伝わる。血が流れていないが故に、それが酷い怪我だとは瞳では認識できない。
 重心をかけるとその場に蹲りたくなる。だが、戦いの最中でそれは致命的な隙であり敗北だ。
 意地と根性だけで、泉夜は痛みを押し殺す。
 銃を構えて泉に標準を合わせようとしたが、その場に泉はいなかった。

 ――何処だ!?

 声には発せず心で叫ぶ。漆黒を纏いし泉はすぐに見つかった。眼前だ。
 すぐに銃弾を放つ。回避を泉はしなかった。回避をせず、銃弾を太股や肩に受けても平気な素振りで泉は鞭を振るった――泉夜は回避しようとしたが、回避するための行動をとるほどの気力は残っていなかった。銃を乱射するが、それは虚しくも砂に着弾する。バランスが崩れる、鞭が身体を引き裂く痛みが如実に伝わってくる。足をやられた時の比ではない。けれど――苦悶の表情も声も、泉夜はあげなかった。
 その表情は確かに笑っていた。
 殺されることを望んでいたわけではない、死ぬことを選んだわけでもない。
 だけれど――殺されるその瞬間に泉夜は後悔などなかった。
 殺されることも死ぬことも望んでいたわけではないが、この結末は望んでいたのかもしれない――矛盾をはらんだままに。


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