零の旋律 | ナノ

第八話:もしもを語った後の結末


+++
 泉夜と泉の決着はつこうとしていた。父親と息子の戦い。妻を愛しすぎていた故に、妻を亡くした後息子と娘へ愛情を向けることが出来なかった父親と、守ってくれる存在が突如逃亡したことによって、妹を守るために闇を一身に引き受けた兄の避けられない戦い。
 銀髪の髪を靡かせながら泉夜は銃を連射する。鞭で弾き切れなかった銃弾が泉の肩に直撃する。血しぶきを上げて、漆黒が僅かに色づく。鞭が撓り肉を抉る。泉夜が苦悶の声をもらすまいと唇をかみしめる。
 容赦も情けもない血を血で洗う争い。互角の戦いを何時までも続けられるわけではない疲弊が疲労が痛みが襲う。
 刃を向けることでしか、結末をつけられなかった玖城の末路。
 その道を選んだことに後悔はなかった。何れこうなると双方が直感していた。
 情報屋としての、情報ではなく己が直感に頼った玖城でありながら、玖城の方針とは異なる感覚。

「もしもなんて存在しない、もしもなんて語ったところで意味がない。だから語るつもりはなかった。けれど――最期であるのならば、その『もしも』を語るのも一興なのかもしれないな」

 泉夜は笑みを浮かべる。唇から血を流したそれが滴る。心を占めるのは今でも息子や娘より妻の割合の方が多い。

「何だ? 最期だ、それくらいは聞いてやる」

 例え血を流そうとも大胆不敵な態度を泉は崩さない。続けざまに銃弾が連射させる。鉛玉ではない、結晶によって作られた術の弾丸だ。
 漆黒の闇が触手のように蠢き弾丸を絡め取り闇へ誘う。

「もしも、馨がいなくなった玖城に耐えていたら、俺はどうなっていたのだろうか」
「そんなもの、簡単だ」

 玖城泉は断言する。

「そんなもの、簡単すぎる」

 泉は繰り返す。足元に具現した黒の魔法陣は闇の粒子を生み出し、実態を持った黒き霧が泉夜目掛けて襲う。

「泉夜は、泉夜としての存在を保てやしない」

 仕方ないというつもりはない。けれど、最愛の妻を亡くした泉夜が、純潔の玖城ではない泉夜の居場所など何処にもなかっただろう。馨がいたからこそ、玖城本家に入った泉夜にとって、妻がいなくなることは玖城の居場所を失うに等しい。失うだけならまだしも、そこから排除されるのは目に見えている。
 今の泉が、そんなことをわからないはずがない。幼いころだって、漠然と理解していた。

「お前が泉夜という存在を保つのならば、玖城の檻を抜け出すことしかなかった」

 その程度のことは分かっている
 だからといって許すか許さないかは全くの別問題だ。
 幸か不幸かはいまだにわからないが、泉も郁も泉夜の半分は玖城外の血を受け継がなかった。漆黒の瞳と髪を持って生まれた。だからこそ――玖城としてそのまま生きる道が存在した。


- 187 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -