零の旋律 | ナノ

V


「理由なんて、明快なもん最初からねぇよ。助けたいと思ったら助けるし、殺したくないと思ったら殺さない。それだけだ。カイヤがいくら俺を嫌ったって俺はカイヤを嫌うつもりがない。ただ、それだけだ――だから」

 ――あはははっ、エンちゃん……僕は、僕は
 ――なんで僕は生れてきてしまったんだろうね
 ――僕に逆らうから、こうなるんだよ
 家族を皆殺しにした日から辛うじて繋ぎとめられていた心は崩壊した。狂気に身を委ねることを覚えた。何も信じないことを知った。敵意を向けてくる相手には死を持って報復すればいいだけだと、学んだ。そうしたら自分の生命が脅かされることもない。後手に回ってはいけない、先手を打てばいいだけだ。

「だから、雅契を抜けろ」
「は――? 何をいって……」

 汐がずっと伝えたかった言葉。雅契に関わり続けている限り、雅契であり続ける限りカイヤは報われない。ならば雅契を捨てればいい。ただのカイヤになればいい。廻る命でカイヤではなく、ただのカイヤであればいい。ずっと思い続けていた願い。

「俺も鳶祗を捨ててやるからさ」
「ば、ばっかじゃないの!?」
「だってお前だけ捨てろってのも、不公平だろ」

 嘗て、カイヤを何処かへ逃がすことを考えたことがあった。けれど、幼い自分に何が出来ると思い留まってしまった。あの時、幼さも何も関係なしにカイヤを雅契から守るのではなく、逃がす道を選べば、少なくともあそこまで壊れることはなかった、と汐は今でもそう思っている。それが後悔となり重くのしかかっていた。

「雅契はどうするのさ……」
「そんなもの雪城に任せろ。雪城眞矢ならば――引き受けてくれるさ」
「眞矢……か。じゃあ鳶祗はどうするのさ、当主でしょ……エンちゃん」
「妹に頼むさ。妹と妹の旦那になるべき人ならば問題ない」
「……人任せ他人任せって馬鹿でしょ。行き当たりばったりの計画性皆無」

 そっぽを向くカイヤだが、動揺が術にも現れたのか、汐に襲いかかる焔の虎狼の勢いが弱くなった。今がチャンスだと火の球が降り注ぐ中を巧みにかいくぐりカイヤの腕を掴む。

「な、何!?」
「だから、捨てろ。お前一人に捨てさせはしないから」

 決意の瞳。確固たる意志の瞳。嘘を言わない瞳。


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