U ――どうして僕を助けてくれるの? ――有難う ――あはははははは、僕を殺そうとするからだ、だから、だから僕は…… あの時の、カイヤの言葉が汐の脳裏で再生される。水に濡れて震えていたカイヤ、照れ臭そうに微笑んだカイヤ、そして――真っ赤に染まったカイヤ。その瞬間、汐は後悔した。何故、あの時カイヤの手を握って雅契という存在からカイヤを助けようとしなかったのだろうと。だから、今度は後悔しない道を選ぶと決めていた。 ――僕に向かってくる奴は皆敵だ。 雅契家は一言で表すなら闇と汐は表現する。漆黒とは違う闇。光をのみ込みこんで偽りの光を時たま発するだけの闇だ。長い歴史の中で蓄積された習慣は血の繋がりによって殺すことをよしとしている。根づいた習慣は色あせることなく、消えることなくカイヤに牙をむく。 「わからなくても構わないさ」 無邪気に微笑んでいたカイヤを見たのは七歳までのころだけ。七歳までがカイヤにとって偽りの雅契で生きてきた幸せだったのだろうと汐は思う。 「本当に、意味わかんないよね。イラつくよね」 「……」 「僕にわかるように――説明してよ」 雅契家は結婚すると大抵二子もうける。そして長子が家督を継ぐことが生まれた時から決まっている、それこそよっぽどの自体――例えば、死んでしまった、とかがない限りは。だからこそ、あの時玖城泉夜は雅契カルヤが雅契の当主だと思いこんでいた。 雅契カルヤは雅契家の長男であり、本来は当主を継ぐ存在だ。 「お前が、何時だって言葉にしないだけで助けを求めていたことを知っているからだ」 「はぁ? 僕が何時、何処でさ」 そして二人目の子供に与えられる役割は、長子がもし死んでしまった場合の代用品――代わりとなるために生かされるのだ。七歳までは大切に。長子がある程度の年齢に達せれば不慮の何かで死ぬ可能性は低くなる。そうなれば、家督争いが起きても困る。そんな問題を避けるために――二人目の子供は七歳を境に殺されるのだ。 「俺は七歳までのカイヤも、それから先のカイヤも知っている。それだけだ」 雅契から殺されかけてきた中でカイヤは水がトラウマとなった。だからこそ、カイヤはカナヅチで、水が怖いのだ。水の中で沈んで息が出来ない苦しい感覚が蘇ってくる。水に限ったことではないが、カイヤが死にかけていた時、毎回のように助けてくれたのは雅契の誰でもない、犬猿の仲であるはずの鳶祗家の長男だった。 そんな生活の中でカイヤは生き残り――そして、当時から類まれなる才能を発揮していたカイヤは血の繋がった家族を皆殺しにした。 [*前] | [次#] TOP |