零の旋律 | ナノ

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 潤と海棠は辛うじて蘭舞と凛舞に勝利する。二人の実力は驚異だったが、それでも勝てた。深呼吸して荒れた息を整える。
 止めを刺す必要はない。別に同じ分家だからと情けはかけたわけではない。それでも、赤の他人だったのならば、止めを刺していたかもしれないのだから、情けが全くなかったわけでもまたないだろう。
 海棠と潤が去った後、二人は身体を寄せ合う。

「蘭舞」
「凛舞」

 名前を呼び合うだけで二人の思いは伝わる。言葉に載せなくても伝わる。
 二人で一つ。そんな風に振舞うことを止めていたとしても、以心伝心、阿吽の呼吸で今と変わらないことが出来たと確信は持てる。深い深い絆。煉舞を守ると決めたあの日、たった二人だけになろうとも構わないと誓った日、蘭舞と凛舞は一人では生きてはいけないけど。二人という一つなら生きていけると確信していた。

「わかっているよ」
「わかっているよ」

 言いたいことは言葉にしなくても伝わる。決して浅い傷ではないが、双方とも手当てをすれば、間違いなく生き伸びるだろうし、此処にいれば何れ雛罌粟が助けてくれるだろう。
 ――けれど
 ナイフをお互い首元に当てる。

「あは」
「あは」

 笑みが自然と零れる。治癒術の使い手が存在しない今、銀髪たちが願いをかなえるだろう瞬間を隣で眺めることは叶わない。けれど、絶望は不思議と何処にもわかなかった。むしろ清々しい気持ちだった。
 最期に戦ったのが、死力を尽くしたのが、他の誰でもない雅契の人間だったからかもしれない。
 ドロドロとしていたものが。何処かで吹き飛んだ。
 理由を問われた所でそれはわからない。曖昧で具体的に表現出来ない。
 けれど、だからといって――それが悪いとは思えなかった。
 それで、構わないと蘭舞と凛舞が納得したからだ。

「ねぇ、そろそろいいよな?」
「俺も、そう思うよ」
「煉はやっぱり恨んだまんまだろうけど」
「もしもあの世で出会えることがあったら」
「家族で第二の生活を築きたいよね」
「俺たちが知ってしまったことで壊れてしまったのを」
「知らなかったことにして」
「最初からなかったようにしたいよね」


 だよね――と二人は微笑みあった。


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