第六話:唯一無二 「外ではまだ戦いは続いておるようじゃの。しかしお主は……?」 凛とした瞳、漂うのは高潔で清廉な気配を自然と放っている雪城の存在を雛罌粟は知らない。 「私は雪城眞矢。雅契分家雪城家の人間だ」 威風堂々と雪城は名乗る。 「そうか、我は雛罌粟じゃ」 「単刀直入に問おう。この場を使う目的は泉から知らされている。しかし解せないことがあるのでな」 「ふふふ、解せないことがあっても――それでも」 雪城の周りを透明な糸が無数に貫くと同時に漆黒が散る。 「……泉か」 一瞥しただけで、それが何であるかの推測は容易についた。 「彼の能力は厄介だからね。破壊させて頂いたよ」 「泉が情報収集の仕方を露見させるとは到底思えない。当時の玖城一族から露見したか?」 雪城はどうやって泉が情報を集めているのか、詳細には知らないし泉が自ら教えるはずがなかった。だが、虚の言葉で今の漆黒が玖城の手法だと理解出来た。 「あぁ、そうだよ。最も私はそれを弟には教えていないから、弟は知らないだろうけれどもね」 「成程。愛しき弟が知らないことは知らなくていいか。世界を滅ぼすという夢を抱いておきながら、世界を滅ぼす上で知らずにいれば致命的になる貴族たちの特性を知らせずにいる、というわけか」 「それが最善だと私は思ったからねぇ。厄介な特性は私が知っていればいい」 威圧的な言葉ではないのに、それでも圧倒されるだけの力を虚は意図せず放っている。雪城の冷静な心が乱れることはなかったが、やや緊張した面持ちで雪城は問い掛けを続ける。 「そうか。ならば――私とお前の会話が傍受される恐れは何処にもないというわけか」 「そういうことになるねぇ。最も念には念を入れて、というわけだが。さて雪城眞矢、君が解せないと思った理由はなんだい?」 「私がそう思った理由は――」 おおよそ、理解の及ぶ所ではない返答を得た所で、結末は変わらない。 それを理解しているのは、誰よりも彼女自身であった。 +++ 「雪城!」 叫び声とともに間に割って入る。寸前の所で、間一髪で間に合った安堵と、緊張感が全身を覆う。 隙のない構えをしているはずなのに、全身が隙だらけのように思える。それだけの実力差だ。 何も出来ない無力感を対峙するだけで味わう。相対しただけで敗北が確定したような空気。 その中で凛とした姿勢を崩さない彼女が背後にいてくれる。そう思うだけで詰まりそうな呼吸が少しは楽になった。 「済まない、助かった」 「いいや、撤退するぞ!」 凛とした姿勢を崩さないからといって彼女が無傷とは限らない。いたるところに傷を負って血を流している。その痛みを治療で和らげることが出来たらいいのに、と切に海棠は思う。 重傷、というわけではないが、それでも雪城は傷だらけだ。 [*前] | [次#] TOP |