零の旋律 | ナノ

V


 砂と雪が入り混じり、不思議な空気を作り出す。乾いているのにひんやりしている。
 槐は火柱から生み出した火の弾丸を止め、別の術を唱え始めた。光の刃が無数に飛来し、次から次へと蘭舞と凛舞へ襲いかかる。それと同時に、槐は二丁拳銃を構える。槐は潤へと表の意識をチェンジする。槐は魔術を得意とし、潤は接近戦による格闘、および拳銃の扱いに長けていた。だからこそ、槐と潤は局面によってそれぞれの表へ出す意識をチェンジして使い分ける。その時間は刹那にも満たないだろう。
 だからこそ、戦闘での隙が殆ど生じることがない。一つの身体に二つの意思が宿り、其々が得意としている分野でお互いの欠点を補い合うのだ。戦闘面に限らず、弱点面を補い会えるというのはかなりの利点であり、優位だ。潤は地面を蹴りかけると同時に銃を乱射する。

「潤、の方か」

 長く雅契の分家から離れている蘭舞と凛舞だが、潤の存在は幼少期から知っている。潤とは、奈賀家に生まれた嫡子と身体を共有する存在。その仕組みは奈賀家にもよくわかっていないようだった。
 その時、蘭舞と凛舞が抱いた感想は幽霊みたいだなと思った。それを本人に直接告げたこともある。その時はまだ槐ではなく別の身体に潤という存在はいた。告げると潤は笑いながらそうかもしれないなと答えていた。潤自身も自分という存在をイマイチわかっていないと言っていた。
 けれど、潤には自分が何者か探すつもりはないようだった。必要ないからと。強いな、とその時正直な感想を抱いた。此方は潤には告げなかった。
 抜群の身体能力で近づいてくる潤相手に、蘭舞は吸っていた煙草を投げる。と同時に潤は回避行動をとる。煙草は爆発をする。後少し回避行動が遅れていれば爆発に巻き込まれて焼き焦げていた。

「流石だねぇ、蘭舞と凛舞は双方が双方の威力をあげている。欠点を補い合う私たちとは別の存在だ」

 潤は余裕ある笑みで笑う。

「けれど、負けるつもりなどないのだから」

 蘭舞の方に海棠は跳躍して切りかかる。それを凛舞が今度は煙草を投げ捨てる。しかし、爆発は小規模のものだった。

「ちぃ」
「ちぃ」

 爆発が起きる前に、予め詠唱して何時でも発動できるようにしておいた結界術を海棠が発動させたからだ。
 それによって煙草は結界の中へ押しとどめさせられその中で爆発が起きた。
 海棠は蘭舞の前へ着地する。鋭い刃が一閃する。蘭舞は辛うじてナイフで受け止める。
 双子であるが故に僅かな拮抗が崩れるとそれが切り込み口となる。
 蘭舞と凛舞はお互いの背中を任せるような形を取っている。足元の魔法陣は輝きを失い砂に戻る。
 ナイフをお互いに構えあってそれぞれ走り出す。蘭舞は海棠を、凛舞は潤に向かって。

「雪城!」

 海棠の叫びに雪城は頷く。海棠を潤と槐を信じている。此処で時間を食っているわけにはいかない。
 外の戦闘が結界の中まで聞こえている可能性は高い。
 ならば、先を急ぐべきだと雪城はかける。雪城まで相手にする余裕は蘭舞と凛舞にはない。雪城は簡単に通り抜けて最期の楽園の地の前へ足を踏み入れる。
 結界のまだ内側だが、踏み入れた瞬間からこの世のものではないような錯覚は収まらない。
 結界を破って中へ侵入すると漂ってくる馨すら初めて嗅いだような匂いだ。例えが見つからない。

「……此処は」
「素晴らしいだろう? それなのに当時の人々はこんなにも美しい自然を台無しにしたのだよ」

 そこにいたのは罪人の牢獄支配者の姉である虚偽と第二の街支配者雛罌粟だった。


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