U 「海棠!」 「大丈夫だ、助かった」 雪を吸って重くなった水は動きが鈍くなり、その隙に海棠は数多の蔓を切り刻む。 「一陣の刃となれ!」 海棠は風の魔術で蔓を吹き飛ばす。足元が水浸しになってきたせいで、足元が安定しない。 「俺らは負けるつもりはない」 「そうして、俺らは目的を叶える」 「例え、それが叶わなくても」 「あの人は俺たちの願いを最終的には叶えてくれる」 「その為なら、あの人のために、姉様のために」 「命を使い果たしても」 「構わない」 「構わない」 双子の絶妙のコンビネーションは厄介だった。雪城、海棠、槐も巧みなコンビネーションで応戦するが、やはり生まれた時から一緒にいた一卵性双生児の足元にも及ばない。 「渇きを望んだ末路から生み出されし、砂葬」 「渇きを望んだ末路から生み出されし、砂葬」 アイコンタクトも何もなしに、蘭舞と凛舞は新たな魔術を詠唱する。一呼吸も乱れない、一節も外れない詠唱は流石としか言えなかった。 この地形にとって有利としか言えない砂の魔術が生み出される。 だが、それは本来の効果よりもやや弱いものとなってしまった。原因は簡単だ、先刻まで使っていた水属性の魔術の結果、砂は水を含み、舞う雪が砂に水分を与えている。 しかし蘭舞と凛舞とてその程度のこと気が付いていないわけではない。 だからこそ二人で術を合わせることによって威力を増大させたのだ。砂は竜巻のように渦巻き、水分を奪い取ろうと襲いかかる。目標はリーダー的存在である雪城眞矢だ。 雪城は雪の術を使って、竜巻のように勢いづいたそれを鎮静していく。その様は華麗であり、儚くも美しい。雪と同化してしまいそうな白い肌、雪のような髪色、澄んだ瞳は他者を魅了する魅力を自然と放っている。一度、その澄んだ瞳に見つめられれば、何人たりとも嘘を隠し通すことは出来ない、そんな印象を相手へ抱かせる。身軽な動きは舞を踊っているよう、スラリとしたスレンダーな身体で軽やかに交わすと、雪が舞う。 「流石、雪城家当主、眞矢」 「何年立とうと、あの時みた輝きは色あせることはなく保ち続ける」 「そんな存在は是からどれだけの年数がたとうと」 「雪城眞矢を他に存在はしないだろうな……」 その存在が一握りでもいいから最初から存在してくれれば、そんな思いが蘭舞と凛舞の言葉には込められていた。楽羽家の事件が起きた時に、起きる前に雪城眞矢のような存在がいてくれたら、まだ救われたかもしれないと思わずにはいられない。 「私を余り過大評価するな、おもはゆいではないか」 「事実は否定できないさ」 「事実は否定できないさ」 会話をしているはずなのに、それでも同じ言葉を同時に喋ることが出来る蘭舞と凛舞の絆は深い。その絆を打ち破ることは何人にも不可能だ。 [*前] | [次#] TOP |