零の旋律 | ナノ

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「私にはお前たちの思いをわかってやることは出来ない。わかってやることが出来ることが一番よいのだろうが、育ってきた環境も何もかも違う中でするそれは、ただの思いあがりであり同情だ。そんなことはしたくないのでな。そして、私たちの結論はやはり一つだ。例えどんな理由があろうとも、我らが主を殺させるわけにはいかないのでな」

 気温の変化が殆どない罪人の牢獄で、それは起こる。徐々に下がって行く気温。冬のような寒さ。
 罪人の牢獄で目にすることは叶わないはずの雪が降り始める。懐かしいと蘭舞と凛舞は思う。雪を見たのは果たして何年振りか――振り返りたくはない。例え是が本物の雪でなくても、偽物だとは思えない。雪城の雪は沈静の効果があるのかと思えるほどに心を鎮めてくれる――沈めないでくれと蘭舞と凛舞は抵抗する。

「雪城に同意だ。蘭舞に凛舞。どいてくれるなら俺たちの方こそ戦いはしない」

 海棠はそう言いながら、剣を抜いた。二人が引かないことを充分にわかっている。引かない覚悟があるからこそ、こうして最期の楽園の地に足をとどめているのだ。結界を破って中に侵入すれば、またそれを守る守護者が存在するのだろうと海棠は予想する。

「まぁ僕も同意だね。僕にとって尊敬出来る主ではないことは確かだ」
「けれど、私はあれを哀れな存在だと見るよ」
「でも見捨てたいと思ったことはない」

 途中で切り替わった口調は、槐から潤への移り変わりを示す。そしてまた槐へと戻る。

「なら、参る」
「なら、参る」

 言葉を見事にはもらせて。二人で一人。そうやって生きてきた、現在も今までも。

「海棠! 槐!」

 雪城の言葉とともに雪城の前へ海棠は飛び出て、そのまま一直線に向かっていく。刃を下に向けてある剣が砂を抉る。槐の足元には銀朱色の魔法陣が描かれる。魔法陣は数センチだけ宙へ浮き、高速回転して火柱をたて火柱は弾丸のごとく飛び出す。

「空へ舞い上がるは」
「天へと手を伸ばす」
「水蔓!」
「水柱!」

 蘭舞と凛舞は背中合わせになり、同時に別々の魔術を詠唱する。それと同時に、二つの折り重なった魔法陣が現れ、蔓のような水は伸縮自在に相手を絡み取ろうと海棠に無数に襲いかかり、水柱は槐の火柱の弾丸を悉く蒸発させる。
 海棠は水の蔓が襲いかかる度に、剣で切り刻み術の経絡から切り離す。切り離された水の蔓はただの水へ代わり、べちゃんと砂に吸収される。吸収されきれなかった水は水たまりをつくる。
 水の蔓を時には交わし、時には後方に下がって捕まらないようにする。
 無数の蔓は切っても一向に数が減らない。蘭舞の術が発動している限り、それは続く。

「っ……!」

 海棠目掛けて無数の蔓が襲いかかる剣さばきだけでは全てを切り刻めない。その時、絶妙なタイミングで雪城の雪が水の蔓へ無数に集まる。


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