零の旋律 | ナノ

第五話:切なる叫び


+++
 雪城と海棠、槐は最期の楽園の前に到着していた。別世界のように感じる空間。結界が貼ってあるが、それでも溢れだしてくる荘厳な気配は変わらない。何もかもが幻のようで、触れば幻と化し消えるような幻想的な雰囲気を醸し出すのが、酷く儚い。
 是が、彼らの切り札の一つだと思うと、同時に刹ない気持ちが溢れてくる。
 こんなにも美しいのに、大地を滅ぼすだけの神聖な毒を持っているとは、当時から生きてきた人々は何をしでかして大地を滅ぼしたのだろうか。想像に難くないのが、また嫌になると自嘲する。

「……お前たちは、確か蘭舞と凛舞」

 楽園の前で待ち構えていたのは左右対称の姿をした双子――罪人の牢獄第二の街で雛罌粟に仕えていた腹心の蘭舞と凛舞だった。時間帯によって変わる姿は、今は大人の姿だった。
 そして、雅契分家である雪城たちにとって、同じく雅契の分家であった楽羽家の双子には見覚えがあった。最も最期に二人の姿を見た時より成長はしている。それでも嘗ての面影を彼らは残していた。

「雪城に、海棠に、奈賀。何故あんたらはあんな奴に従うんだよ」

 “あんな奴”が誰を示すのかはすぐに検討がつく。雅契家のことだ。

「それは分家だからさ、という答えの他にもまだあるよ。あんな奴だからこそ私たちはつき従っている。それ以外の答えなどないだろう」

 雪城が代表して答える。

「……まぁアンタはいいのかもな」
「雪城眞矢として、分家の中でもトップクラスの地位にいるアンタには」
「だけど、楽羽はそうはいかなかったんだよ」
「楽羽は雪城とは違う。だからこそ、俺たちの楽羽は壊れたんだ」
「俺たちを壊した直接の理由に雅契カイヤは関係ないのはわかっている。それでも」
「全ての根源たる原因は雅契であり、雅契の当主であるカイヤが背負うべきであり」
「だからこそ俺たちは雅契カイヤを殺したいんだ」
「最も、姉様はそれをよしとはしなかったし、俺たちにも出会えた人がいるから復讐にはいまだ手を出さなかった」
「それでも、俺たちは失ってしまった。自分たちが背負えばいいと自分勝手な行動をした結果、失わせてしまった」
「俺たちの最愛の弟を」

 蘭舞と凛舞は交互に喋る。それが一つの言葉になっているのは、二人が長い年月一緒に生きて片時も離れないような双子だったからだ。意思疎通は容易い。淡々とした口調の中に悲痛な叫びが混じっているのを雪城は確かに聞いた――心で。

「だから――復讐を諦めるわけにはいかない」
「姉様は俺たちと雅契カイヤを会わせないようにしていたみたいだし、姉様に逆らうつもりはないから」
「こそ、俺たちは此処にいる。俺たちが待っているのは雅契カイヤであり、雪城や海棠、奈賀ではない」
「けど、戦うというのならば俺たちは全力を持って相手をする」
「同じ分家でありながら、お前たちは俺たちと違って日の目を見てきた」
「ただの嫉妬だろうとも、そこに恨みがないとはいえない」

 蘭舞と凛舞はそう言い切ると、煙草を取り出し口にくわえてライターで火をつける。煙はもくもくと上へ上昇していく。


- 175 -


[*前] | [次#]

TOP


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -