U 「……罪人の牢獄支配者、通称銀髪と呼ばれている彼ですよ」 「あぁ、あれぇのこと。別についているわけじゃないわぁ。私は私のやりたいように好きなようにやるだけよぉ」 偶々傍にいたのが銀髪。偶々行動したのが銀髪。偶々一緒にいたのが銀髪。それが梓の答え。 銀髪の目的に共感したわけでも、銀髪の願いを叶えてあげたいと思ったわけでもない。 ただ、梓がやりたいことを、好きなことをやりたいと思ったことをやっているだけ。その隣に偶々銀髪がいただけのこと。それが確固たる答え。答えにならない真意。 「そうですか、愚問を失礼しました」 「別にぃ」 「それでは、問いを変えましょう。貴族邸に何用ですか?」 「あはっ」 高揚表情、赤く染めた頬は妖艶で真っ赤な唇は血を紅にしたよう。 「……復讐は望みますか?」 ――貴方を切り離した、貴方を中傷の的にした彼らを 「きゃはははっ、そんなものに興味なんてないわぁ、それにそんなこと忘れたわぁ」 血に見せられ、血に狂った女性。まっすぐな淀みない瞳。繚は身震いする。この女性は一体何者だ、得体のしれないものから感じる恐怖。何故、こんな女性と海璃は対等に会話することが出来るのか繚には不思議だった。 「そうですか」 「そうよぉ、きゃははは」 彼女の笑い声が脳内に響き渡る。澄み切った美しい声色だからこそ、直接響いてくる戦慄となって。 「では、私は失礼しますね」 このまま会話を続ければ何れ、赤へこの場を変えてしまうと海璃は判断し、恐らく最初で最後だろう朱宮梓との会話を打ち切った。繚の震えている肩を優しく撫でて梓へ背を向ける。 「海璃さん。彼女は何者なの?」 梓の姿が見えなくなっても、まだしばらくの間念には念を入れたのか数分後、繚は海璃に尋ねる。 「彼女は朱宮梓。朱宮家の令嬢だった方ですよ」 「朱宮って?」 「繚が朝霧の名を名乗るようになる前に存在そのは知りませんか。朱宮梓、彼女は朱宮の存在によって狂わされ、そしてそれを受けいれた女性です」 「どういうこと? ……ううん、聞かない方がいい?」 「そうですね、その方がいいかもしれません」 「じゃあ、聞かない」 例え気になることがあったとしても繚にとっての全ては怜都であり、他のことは全て二の次になるのだ。 海璃と繚が向かう先にあるもの――それは―― [*前] | [次#] TOP |