零の旋律 | ナノ

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「私たちの目的は……」

 言い淀む。栞の視線がではない、栞たちと朔夜たちの間に一人の人物が現れたからだ――罪人の牢獄支配者銀髪は腕組みをしながらその場に悠然と立つ。

「で、目的は?」

 目的を促す。
 ――何を躊躇している必要がある、その為に此処まで来た。

「私たちの目的は、罪人の牢獄を出たい」
「――!?」

 銀髪と目的を知らされていた朔夜以外は驚く。
 あたり前の願い、といってしまえばそれまで。それ故に朔夜誘拐の目的が判然としなかった。
 此処はどんなに生活が出来る空間であっても罪人の牢獄
 大切な人は傍にいない――それに生活面も決して充実しているわけではない、住めば都といったところで此処は罪人の牢獄でしかない。だからこその願い。

「私らは罪人の牢獄から出たい、例え罪人だったとしても――この地で死にたくはない」

 遠目からでもいい、一目会いたい。

「は、自分らそんなんを願ったんかいな」

 榴華には理解出来ない想い。榴華は柚霧を傷つけた人たちが許せなくて、自分一人になりたくなくて――柚霧を追い求めて、罪を犯した。
 そして、柚霧と離れ離れになることなく、再会することが出来た。だから元に戻りたいと願ったことも考えたことは微塵もなかった。
 元いた場所が、罪人の牢獄じゃないからといって住み心地がいい場所では決してなかった。
 強大な力は相手に恐怖しか生まなかった。柚霧だけが自分を畏怖することなく近づいてきてくれた唯一の存在。

「あたり前だ、大切な人がいるんだ。もう一度一目でもいいから会いたいと願うのは当然のこと」
「……かもしれんなぁ」

 そこで、同意する気持ちが生まれる。柚霧と離れ離れであったのなら、元の場所――柚霧のいる場所にいることを望む。
 榴華の視線は銀髪に映る。結論を出すのは榴華ではない。罪人の牢獄支配者である銀髪だ。

「構わないよ」

 銀髪はあっさりと承諾する。罪人達はあっさり承諾されるとは思わず目が点になる。

「何を驚いているんだい? 君たちが無謀を冒してまで叶えたいと言った願いなのだろう?」

 くすりと銀髪は笑う。

「だったら叶えてあげるさ――“君たちに限らず”ね。ただ今しばらく時間はかかるけれどそれで構わないか?」
「あ、あぁ」

 半信半疑の状態と、そして願望が叶うのなら――歓喜に酔いしれる。

「だから朔夜をさっさと解放するといいよ」

 罪人はあっさり朔夜を解放する。もとより傷つけるつもりもなかった。願いが叶うなら解放するつもりだった。
 朔夜は前に歩いていき、どうするか迷う。一発でも殴っておくべきか――今の状態なら恐らく罪人は殴られることを許容するだろう。
 けれど朔夜はそれを選ばない。銀髪の元へ真っ先にいこうかともしたが、栞が先と判断し栞の元へ向かう。

「朔、本当に大丈夫なの?」
「あぁ、全然問題ない。むしろ丁寧過ぎる扱いを受けて困惑していたくらいだから」

 笑顔を見せ、朔夜は栞を安心させようとする。

「本当?」
「あぁ、本当だ、本当」
「朔がそういうなら、いいっか」

 右手に握られていた光を通さない黒の刃は、影となり霧散する。


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