零の旋律 | ナノ

第四話:想いか定めか


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 一緒にいて欲しいと願いたかった、けれど背負ってきた宿命を定めを宿願をそのひと言で崩すわけにはいかなかった、一存で全てを変えるわけにはいかない。
 だからこそ後悔はないと――嘘を見抜ける、嘘が通じないと断言する海璃が自身へ嘘をついていたことを、やはり海璃は見破っていたがそれを認めてはいなかった。
 見破ろうとも認めるかは別だ。

『けれども――やはり』

 心苦しい。
 何が? 何を? 何故? わからない、それでも

『嘘をつき続け偽り続けるくらいならば、いっそ』

 回り廻り、辿る答えは何度繰り返そうとも変わらずに心を締め付ける。
 海璃は弓筒を背負い、弓を持つ。大した戦力になることはないかもしれない。けれども――翆鳳院家として出来ることはあると、意思を固めて外へ出る。
 例え望んだ結末を迎えられることはなくても、望まない結末を避けるために動く。
 翆鳳院家それは過去を紡ぎ、歴史を記録し続ける唯一の一族。
 彼らに嘘は通じない、彼らは歴史の見たままを記録するのだから。
 翆鳳院海璃が外に出た時、その場には真っ白の髪、瞳中で色合いが異なる少年が門番のように立っていた。

「繚(れう)、どうしたのですか」

 海璃は驚いた表情を隠すことなく、繚に問う。朝霧繚は白銀怜都に付き添う存在であり、本来ならばこの場にいるはずのない人物。怜都は虚偽につき従っているのだから。そして双海と行動を共にする。
 繚が自分という存在を殺すためにこの場にいるとは到底思えなかった。だからこその驚き。

「ん、双海がきっと海璃さんが出てくるからこの場にいろって。その方が怜様のためになるって言われたから」

 怜都に心酔している繚だからこそ、怜都のためになると言われれば動かないわけにはいかない。
 双海の誘導によって、繚を自分を守るための守護者としてこの場に残していたのだと思うと、自然と笑みが零れる。怜都のためだ、といいながら――そしてやはり怜都のためであるからだが、それでも双海も双海で自分には優しいと思わずにはいられない。

「怜都もいい子を部下に持ちましたね」
「え、ほんと!? そう言ってもらえると嬉しい」

 無邪気に微笑む少年。その過去を断片的ながらに知っているからこそ、海璃はその無邪気さに心境は複雑になる。普通の生活に戻ることだって可能だった少年は、自らの意思で怜都という存在に仕えることにした。その健気な思いに、海璃だけでなく双海も複雑な思いを抱いている。
 珍しい瞳、ということで朝霧家――繚のその頃の名字は朝霧ではない――に玩具として捕らわれていた少年。何年間も捕らわれ続けた少年を結果として助けることになったのは怜都だ。当時、白銀家へ反旗を翻そうとしていた朝霧家に対して怜都と双海が朝霧家を血の海へしていた時、偶々捕らわれた少年を発見し、怜都はその少年を気まぐれだろうがなんだろうが助けた。それが繚だ。衰弱し弱り切っていた繚をその治療したのは治癒術が使える唯一の少年朧埼だ。


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