零の旋律 | ナノ

T


 考えても埒が明かないならば、と水波は視線を篝火と朔夜に移した。
 朔夜や貴族勢へ回ったとはいっても、篝火とは仲間だ。例え一度刃を交えたとしても、その事実は変わらない。篝火と朔夜は共闘して――以前、刃を交えたことのある罪人。戦闘狂といっても過言ではない兄弟の弟――チャクラム使いと戦っていた。

「だおっ」

 朔夜は尻餅をつく。受け身も何もない、尻餅をついただけの、おおよそ戦場には似つかわしくない動作だ。
 けれど、尻餅のお蔭でチャクラムを間一髪交わすことが出来た。
 朔夜は戦いに慣れているとはいえ、頭上で命を奪うチャクラムが回転し通り過ぎて行くのは肝が冷える思いだった。

「てめぇつ!」

 朔夜は仕返しとばかりに雷を落下させるが、既に数度繰り返していることもあり攻撃パターンが見切られているのか、軽々と交わされてしまう。同じ中遠距離を得意としている相手同士ではあったが、しかし相性は悪かった、チャクラム使いは状況に応じて接近戦もこなすのだ。
 チャクラムが戻ってくると同時に篝火が接近する。武器を使う相手に素手で挑むのは不利、だなんて思ったことは一度もない。何時だって獲物を使う相手と戦いを繰り広げてきたのだから。
 篝火の蹴りをチャクラムで受け止めようとするが、篝火はその瞬間重心を支えているもう片方の足の重心を崩すように身体を後ろへ動かし、足はバランスを崩して篝火は後ろへ倒れる――その瞬間に両手をついて最初の位置からずれた足で、相手の首を狙って蹴りをかます。突然のことに対応しきれなかったチャクラム使いはそのまま攻撃の勢いを殺しきれず砂が宙に舞う。
 篝火は側転するような動きで身体を起こす。深追いはしないで確実に攻撃を加える。慎重な篝火らしい先方である。

「ナイス!」

 朔夜の声に、篝火は返答しない、何故ならばチャクラム使いがすぐに起き上がってきたからだ。首に直接攻撃を受けてまだ立ちあがってくるなんて頑丈だと、篝火は構える。
 チャクラム使いは油断していた、強敵は篝火だけで朔夜は別段脅威にはなりえないと。

「ははははっ、いいねぇ、いいねぇ楽しいねぇ」
「楽しくはないだろうが」
「いんや、楽しいに決まっているじゃないか。気分が高揚するよ……!」

 頭上で、空が存在しない地下の空洞で眩い光が一直線に落下してくる、いつもの直線攻撃だと油断をしていたチャクラム使いは簡単に交わすことしかしなかった――交わした瞬間、その光が雷とは異なる輝きをしていることに気がつくが、時はすでに遅い。油断しきったそこに、直撃した。

「ががあああああ」

 それは雷のように痺れはしない。不思議な――けれど、攻撃には変わりないそれをじかに浴びて、両膝を突く。倒れなかったのは彼のプライド故。

「のっやろ……!」

 チャクラム使いは身体が光を受けた影響か僅かに発光している。脳は回復が必要だと訴えるが、それを全身で拒否してチャクラムを投げようとする――しかし、朔夜にしか視線を移していなかったのは失敗だった。怒りでとりかえしのつかないミスをしたことに彼は気がつかなかった。
 背後に回った篝火はチャクラム使いの頭部を思いっきり殴った。

「がっ……」

 投げることが叶わなかったチャクラムは砂を転がり、チャクラム使いは地面に倒れた。起き上がる気配はない。


- 170 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -