零の旋律 | ナノ

第三話:最果ての罪人


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 混じり合い、砕け散り、進み戻り、滅び再生して――

 水波瑞は戦いの最中、身体は弓を操り的確に矢を放っていくが、頭は別のことを考えていた。別のことを考えながらも、的を外すことがないのは流石というべきところか。
 ――僕の作戦に間違いはないはずだ、けれど、おかしい
 違和感。水波瑞とて知っていることは情報屋には及ばずとも、その情報量は膨大だし、それから作戦を立てることに関しては情報屋を凌駕している。だが、知らないことは知らないのだから、作戦が確実に成功するとは断言できないし、断言することは言語道断だと水波は思っている。何より今相手にしているのは年季も何もかもがケタ違いだ。万全に万全を期したつもりでも、それでも隙をつかれることは大いにありうるのだ。
 水波は視線を、栞と律へ移す。闇と――といっても、玖城が扱うような闇ではない、もっと奈落の底へ沈み救いようがないのに救いを求めて手を伸ばしているような――影がぶつかり合う。
 一纏めに出来そうな色合いでありながら、双方は混じり合わない異質で、一目でどちらが影で闇かを判断出来る。そもそも律の攻撃手段を闇と例えるのは聊か間違いだと水波は自分の例えに苦笑しながら、しかし闇以外の表現が出来なかった。
 栞の影は影を切る。影を切るといっても実際影を攻撃しなければならないわけではない。影の上を通過するだけで、影を切ったことになるのだ。何とも便利な能力だと水波は思う。
 水波は最初から、栞が紫影の一族であることも、栞がそのことに関して全くの無頓着であることも知っていた。何故ならば、当時第三の街支配者であった栞と接触し、血を流すことなく第三の街支配者の地位を譲ってもらったのだ。

「……本当にねぇ、律君」

 水波は独り言を口にする。栞の影を律は的確に交わす。一撃必殺の能力に近い影だ、自身の影を通過されればそれまで、だから律は自分の影に当たるよりも先に銃弾を打って影で出来た短剣をはじき返すのだ。最も、それも何時まで続くかはわからない。そもそも本来の武器は大鎌であって銃ではない。
 交わせないと瞬時に悟った時は銃による攻撃は止めて、死霊の術を用いて死霊を盾代わりにして栞の攻撃をやり過ごす。その術に栞はぎょっとしたのも無理はない。

「栞君は何かを企んでいるのだろうか、それとも」

 水波にはわからないことである。例え栞の殺戮能力は多勢に無勢の言葉なんて存在しないような戦い方を可能にする。けれども――いくら栞が強くても、貴族勢を相手に一人でことが足りるわけではない。
 それなのに、この場にいるのは栞一人。否、罪人も他にはいる。大半が屍と化していながらそれでも生き残っている数名が。
 生き残っている罪人の顔ぶれは大半が最果ての街を生き抜いてきたつわものたちだ。
 銀髪が、彼らのことを栞に一任した可能性は残るがしかし、この場で乱戦をするのには聊か実力面で比率が合わない。そんな中に、銀髪が栞を送り込むとは聊か考えにくい。ならば何故この場に栞がいると問われても今の水波は答えを持ち合わせていない。


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