零の旋律 | ナノ

第二話:玖城


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 泉は、同一であり対比であり対極であり許せざる存在である泉夜に近づく。邪魔な罪人達は一通り片付けた。

「泉……」

 複雑な面持ちで泉夜は銃を泉に向ける。円満な家庭を築けることはついぞなかった。泉夜にとっての全ては馨だけだった。その結果息子と敵対したとしても――構わないとは言えないが、それが仕方ないことならば対決もやむなしと判断していた。そして泉夜はこうも思っていた。泉夜と泉、対決なくして解決はないと。それが玖城家を継いだものと玖城を捨てた者の思いであり相異である。

「泉夜、何故今さら此方側へ関与した」

 情報屋がわかるのは人の情報だけ、人の心を推し量ることはできない。

「お前は玖城を捨てた、そして世間から姿を眩ませた。なのに何故今さら俗世間に――世界に関与しようとする」

 泉の鞭が撓ると同時に泉夜は銃弾を放つ。しかし銃弾は泉の周りに現れた闇によって遮られてしまう。

「……そんなもの今さら思ってしまっただけだ」
「俺たちに会いたいとか?」

 泉夜の言葉を泉は不愉快に続けた。

「あぁ、そうだ。馨への想いに整理がついたら唐突に会いたくなったんだよ。身勝手で構わないさ」
「身勝手なことに関して俺は責めるつもりはない。誰だって身勝手なんだ、自己を守るための弁解などしないさ」

 泉だって身勝手な理由でこの場に立っている。身勝手な理由で他者の命を危険にさらし――奪った。
 故に、泉夜のことを身勝手だと罵る権利はないと。

「郁にも一目会いたかったな」

 それは泉夜の本心だが、泉にとって怒りの引き金を引く一言であるのは間違いなかった。それを泉夜とてわからないわけではない。それでも自然と口から出てきた言葉は――思いは誤魔化しようがなかった。

「それをてめぇが語るな!」

 鞭は泉夜をなぶり殺そうと弧を描く。泉夜は鋭く容赦ない攻撃に対して鞭に狙いを定めて銃弾を撃ち込む。鞭の軌道が僅かにずれ、泉夜の頬を軽く掠めるだけで済んだ。軽く掠めた所からは血が滴る。痛みさえもが、今の泉夜にとって悪いものではなかった、痛みは泉と再会できたことを幻ではないと認めてくれる。

「てめぇを俺は父親だと思ったことはない」

 親子でありながら、それを否定する決定的なひと言。泉夜にはわかりきっていたことであり苦笑いと同時に僅かにさびしかった。自分が泉をそうしてしまった。闇から守ることもせず、幼い泉に全てを背負わした以上、当然の対価だと泉夜は思っている。例え時を巻き戻してやり直すことが出来たとしても泉夜は泉たちを見捨てると断言出来た。今の自分でさえもそうすると――それが非道であることを重々承知したうえで、泉に全てを背負わせる。父親と名乗る資格を持ち合わせていないことは泉夜が一番わかっている。
 馨との思い出が忘れられず、あの日々に浸っていたいから術で外見が変わらないようにして二十代の姿を保っている。全ては馨を中心として回っていて、馨に対して心の整理がついた今でもそれは普遍的なものだった。


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