T 乳白色色の視界は消え去り、空を覆っていた紫電も消え去る。 「はぁはぁ……」 両方が生き残る結末はない。信念がぶつかりあった結果だ。 「終わったのかい」 結末を決着がつくのをその場で傍観していたといわんばかりのタイミングで銀が背後から声をかける。 「……見ておったのか」 肩で息をしながら、雛罌粟はその者へ返答する。 榴華は地面に横たわり、息をしていない。 「最初から見ていたよ。最も双海が乱入するのは予想外だったけれどもねぇ」 「何故じゃ?」 「愛しき弟に頼まれたからに決まっているじゃないか、最も私はその頼まれごとを聞いてはいないがね」 虚は愉快そうに――表情だけを作りおどけながら答える。 虚は最初からこの場所を観察していた。弟である虚偽に頼まれて。その頼まれごとの内容が雛罌粟は容易に想像ついたのだろう、やや顔を顰めた。 「あれは、君に人を殺してほしくないと思っているからねぇ、例え間接的に殺すことになったとしても直接的に手を下してほしいとは思っていないのだよ、だから君が止めを刺す前に――と頼んで来たのさ」 「だが、お主はそれをしなかった」 「私としては、あれの頼みを聞く必要がないと判断したからさ。私は弟以外どうでもいいが故に、私は弟の頼みなら何だって叶えてあげたいとは思っているけどねぇ、しかし、叶えない方が弟のためになるのであれば私はあえて弟の願いを無碍にしようではないか」 虚は役者のように答える。淀みなく、それでいて狂った答えを。 銀髪は雛罌粟と榴華が全力でぶつかった時、雛罌粟が負けるとは考えていなかった。それを虚は甘いと身内判断だと心底思った。単純な攻撃力、身体能力面では雛罌粟は榴華の足元にも及ばない。負けるとも思わないが勝てるとも思えない、希望的観測や身内判断を含めていい相手ではないことは確かだった。 だからこそ勝率は半々――むしろ榴華の方に傾いていると虚は冷静な判断を下していた。最も冷静な判断より甘い判断をした銀髪の方が正解だったのだから虚は何とも可笑しい気持ちだった。 「そうか」 「そうさ。私としては弟の願いを叶えない方がいいと判断した。それに君だって人を殺した咎を背負う覚悟を持っているのだ、それをあえて邪魔するというのもまた野暮ってものだろう?」 「……そうじゃの」 「私はそう思った私の判断に従ったまでさ」 「ならば一つ問おう、お主は我が負けそうな場合もそのまま傍観していたかい?」 「どちらだと思う――?」 不敵に、妖艶なる笑みを浮かべる。銀色の悠然なる姿は、コンクリートが悉く破壊され大地が姿を現し、その大地すら変色されたこの場には酷く不釣り合いであり、だからこそ歪みを象徴しているようであった。 [*前] | [次#] TOP |